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♪3・12

まずいっと思ったときには、もう水の塊に足をとられていた。
ズブズブとあっという間に腰の高さまで上がってくる。必死で両手で水をかき分けようとするけれど体は前には進まない。見えない足元が何かにとられてつまずいたところへ、後ろから何か流れてきたものが背中を強打。態勢が崩れたところへ波が襲いかかってきて、とうとう流されてしまった。
ものすごいスピードで押し流される。流れてきた看板みたいなものに必死でつかまる。
ゼェゼェゼェ、ゲホッ、うぇっ。看板の上でなんとか呼吸を整えた。波にもまれたときに少し水を飲んだ。油臭くて胸がムカムカする。ここはどこだ。そのまま流されていくみたい。
やがて僕がつかまった看板は、大きな建物らしきものに引っ掛かって止まった。チャンスだ。なんとか沖まで流されずにすむのかもしれない。
必死でコンクリートの壁をつかみ、よじ登る。
服はびしょ濡れで、あっちこっち傷だらけでヒリヒリする。とにかく助かった。
いや、助かった?本当に?
あたりは人影ひとつなく、泥の海が渦を巻いている。屋根や車がゴッツンゴッツンとぶつかりながら流れていく。
連絡できるものはなにもない。ポケットにあったはずのスマートホンもどこかへ行ってしまった。もちろんポケットに残っていたところで使えるはずもない。
もしここへ誰かが助けに来てくれるのなら助かったといえるのだけど。
そもそもこんなひどい津波だ。日本中水浸しならきっと誰も助けになんてこれないのかもしれない。
それにしても寒い。
日が暮れていく。
歯がガタガタと震える。
体中がズキズキする。
頭が割れるように痛い。
このまま誰にも連絡がとれないまま、夜を迎えるとどうなる?
持ち堪えることができるのか。
寒い。
家族は、友達は、恋人は、どうしてるだろうか?
寒い。
意識が遠のいていく、、、
寒い、、、


・・・こんな夢をたまに見ることがある。
薄れていく意識の中で、こんなふうに亡くなっていったのかもしれない数えられないほどのたくさんの人のことをとてもやりきれない気持ちで思い浮かべる。
苦しかったですよね。
寒かったですよね。
痛かったですよね。
不安でしたよね。
愛する人に知らせるすべもないまま。


あの3月12日の朝、テレビのニュースで目にしたものは、なんにもなくなってしまった、かつて町だったはずの場所の風景だった。
石巻ではタンカーが街につっこみ、ほうぼうが燃えて真っ黒焦げになっていた。陸前高田では病院の屋根に取り残された数名がヘリコプターで救助されていた。
その映像には映らない、その夜を持ち堪えることができなかった人たち。

昨日、全国各地で黙祷をするニュースが流れていた。
でもね。
黙祷をするのは14時46分ではないような気がする。
だって、そのときはまだ、ほとんどの人は普通に生きていたんだから。

僕には何にもできない。
ただ、そういうふうに失われてしまった命があったということを想像して怖れていたい。
そして、これは決して他人事ではなく、いつだって自分の身に起き得ることなのだと思っていたい。

20180312190437052.jpg
In The Wake Of Poseidon / King Crimson




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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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