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続・音楽歳時記「霜降」

10月23日は秋の最後の節季、霜降。
霜が降り始める頃という意味だ。
いよいよこたつも出した。
秋はどんどんと深まっていく。
元々独りでいることは苦手なほうではないけれど、秋という季節は、なんとなく独りでいたい気分が増す気がする。
春爛漫の時期やピーカンの真夏に独りでいるのは時々少し淋しい感じがしてしまうこともあるけれど、秋はむしろ独りでいるのが心地よい季節であるような気がするのです。
なんていうんだろうか。通り過ぎてきた出来事を、少し落ち着いて噛みしめてみるような季節というか。
思い返して、受け止めて、改めて意味を考えてみたり、納得したり、反省したり、或いはやっぱり納得できなかったり、リベンジを誓ったり。
たくさんの人たちとつるんだり群れたりしているときは、ついつい勢いで突っ走ったり、逆に全体調和のバランスを考えたりで、ほんとうは自分はどう思っていたのか、どう感じていたのかということが自分自身でも案外つかめていなかったりするもので、改めて心の整理をするような作業は独りでないとできない。
そういう意味で独りでいる時間、独りのときにする心の作業というのはとても大切なんですよね。
集団の中で生活するということは、会社での自分、家庭での自分、友人たちとの交流の中でさえ、それぞれに良くも悪くも何らかの「役割」を担うことになる。それを正しく遂行することが求められる。それはそれで構わないのだけれど、何の役割も担わない自分自身に戻る時間はとても大切なことなのだ。求められている「役割」を正しく遂行するためにも。

自分が何の役割も求められていないのではないかと感じることが孤独。
あえて一人でいる時間を大切にすることと、孤独であることは、似ているようで違うのだ。

tom_petty-wildflowers.jpg
Wildflowers / Tom Petty

さて、そんな気分で選ぶ“霜降”の一枚は、トム・ペティのソロ・アルバム、“Wildflowers”。

そもそもストーンズやフェイセズと違ってハート・ブレイカーズというバンドそのものが、ソロ・アーティストとしてのトムの世界観をバック・アップするためのバンドなのだから、ぶっちゃけバンドでもソロでもテイストそのものに大きな違いはない。ハートブレイカーズのメンバーもそこそこ参加しているし。
それでも、どっか違うんですよね。ハートブレイカーズの音と比べると。
ちょっとザラついて斜に構えた感じ。
そのくせとびっきりにイノセントでセンチメンタルな感じ。
どちらかといえば淡々と控えめな楽曲が並んでいるけれど、どこかザラザラした肌触りがあって、そのザラザラ感はバンドではなくソロでなければ表現できなかったのかもと思わされるような少しヒリヒリした感じがする。かと思えば、妙にほっこりするフォーク/カントリーっぽい曲がいくつかあったり、とてもへヴィーでどろっとどす黒い印象の曲があったり。
そういう感じ、なんとなくトム・ペティという人の心のうちをこっそりと聞かせてもらっているような雰囲気がある。聞かせてもらっているうちになんとなくこちらの心も整理され浄化されたような気がしてくる。
荒ぶるでもなく、落ち込むでもなく、ただ淡々と、けれどそれは平板ということではなくて、微妙な綾や機微が織り込まれていて、そよ風やさざ波のように心を静かに揺り動かしてくれる。
とても豊かな音楽だと思う。



秋は深まっていく。
そう言えば、トムが亡くなったのは去年の秋だったっけ。







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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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