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続・音楽歳時記「寒露」

台風が去って秋の空。
お神輿を担ぐ掛け声や太鼓の音が聞こえてくる。
節季は寒露。
朝晩には冷たい露が降り始める頃という意味で、つまりそれまでには収穫を終えなきゃね、というひとつの目安の節季でもあります。
実りの秋という言葉があるように、秋はひとつの決算期だ。
冬に蓄え春に芽吹いた何かの結果報告が求められる季節。
その結果が良かろうと悪かろうと、ひとまずはここまでの労を労い、神様に感謝しましょう、っていうことでお祭りが行われる季節。

で、お祭りといえばなんとなくこのアルバムなのです。
デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの1982年のアルバム「Too-Rye-Ay」。
発表当初は「女の泪はワザモンだ!」という訳のわからない邦題がついていた。邦題つける時に、Too Ray Eye=光にあふれた瞳、とでも勘違いしたのだろうか(笑)。
じゃあ実際Too-Rye-Ayがどういう意味なんだ、って言うと、どうも意味はなくって、お囃子の掛け声のようですね。アーコリャコリャとか、チョイナチョイナとか、ヘイヘイホーとか、そういう類いの言葉。
やっぱりお祭りなんだな。

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Too Rye Ay / Dexys Midnight Runners

“Ladies and Gentleman,I give you the Celtic Soul Brothers...”
アルバムはそんなアナウンスで始まり、バンドのテーマ曲のような“The Celtic Soul Brothers”、そこからホーンセクションがソウルフルな“Let's Make This Precious”へと軽快に続いていくのがすごく気持ちいいのだ。
ベースのソウルフルなうねりに、チープなドラムの温かみのあるリズム。ホーンセクションが威勢よく煽る一方で、フィドルやバンジョーやマンドリンやアコーディオン。どこかとても懐かしい感じ。
ヴァン・モリソンのかっこいいカヴァー“Jackie Wilson Said”や“Plan B”でのはっちゃけぶり、“Old”や“Until I Believe in My Soul”での胸しめつけられるようなせつなさ、それらの曲たちが泣いたり笑ったり踊ったり愛しあったりを繰り返していく様子は、ひとつの物語、ひとつの舞台、ひとつの人生を垣間見ているかのようだ。
そしてラストの大ヒット曲、“Come On Eileen”。
若い男の子が女の子を口説いている。
たぶん、お祭りの夜。
軽快なフィドルとバンジョーに合わせてケヴィン・ローランドが歌い出す。



ラジオから年老いたジョニー・レイの哀しみに満ちた歌
その昔、100万もの人々の心を揺さぶった歌声
母親たちがその昔歓喜したんだろう
それは誰にも咎められはしないさ
今、きみはは充分に大人だ
だから今、はっきり言うよ
さぁ、歌おう
僕らの親父たちがそうしたように


ジョニー・レイっていうのは1930年代に活躍した歌手。僕らの親の世代に例えれば、加山雄三や橋幸夫みたいな存在だったんだろう。
ジェネレーション・ギャップを感じつつも、父親や母親たちがしてきたのと同じような世界に足を踏み入れようとしている少年少女。この年になれば、自分にもそんな時代があったっけ?と思うような感じだけど(笑)、少年時代だからこそのやんちゃで恐いもの知らず、そんな若さがあふれたこの歌の二番が好きだな。

このあたりにいる人たちはみんな
伏し目がちで疲れ切った顔をしている
生気のない顔で「運命だ」なんてあきらめている
でも、僕たちは違う、違うんだ
あきらめるには若すぎるし、あきらめるには賢すぎるのさ


「でも、僕たちは違うんだ。」っていうひとことに、元々パンク少年だったケヴィン・ローランドの意志が現れているよね。

お祭りの夜が明けると、ひとつの決算を終えて、また次の春に向けて蓄える季節が始まる。
実りの秋。
今年、僕はどんなものを実らせただろうか。
正直、今年は少し栄養不足。今までの蓄積でとりあえずはひととおりの収穫はこなせているものの、大きな成果とはほど遠いような気もする。
まぁ、過去の経験を頼りに、最小限のエネルギーで目的地に速やかに達することができるのも大きな功績なんだろうけど、もうちょっと四苦八苦して泥にまみれながら今までに見たことのないものを手にしてみたいという気持ちと、もうそんな体力残ってないしのんびりある程度でやらしてくれよ、って気分が半々くらい。
あきらめるには歳をとりすぎたし、あきらめるには愚かすぎる、ってところか。
まぁいいや。まずはしっかりエネルギーを蓄えて冬に備えるべし。
冷たい冬の風が吹き付ける前に。




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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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