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続・音楽歳時記「処暑」

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On The Beach / Chris Rea

クリス・レアの“On The Beach”。
このレコードがリリースされたのが1986年。
19歳だった。
一人暮らしをはじめて、アルバイトばっかりしていた。バイトのない日にはどこか友達の部屋で飲んでいた。
その頃の僕は、ハードなロックやパンクばっかり浴びるように聴いている少年だった。心の中の野獣を解き放つようなカッコよさにしびれていた。ただただ意気がって虚勢を張ってばかりの自分、荒波にもまれて呑み込まれてしまいそうな自分。そんなちっぽけな自分自身が、溺れたり迷ったりバラバラに砕けてしまったりしないようにするためには、ロックのビートがもたらしてくれるエネルギーが必要だったのだと今は思う。ハードなギターの音や激しいシャウトでからだの中を満タンにすることが、あの年頃特有の不安や不満から逃れる一番の方法だったのだ。

そんな僕が、ハードでへヴィーな表現とは程遠い、老人のひなたぼっこみたいにひなびたこの音楽を気に入ったのはどうしたわけだったのか。
なんの予定もない日なんかに、このレコードをかけてぽかんとするのが好きだった。部屋の隅っこで膝を抱えて、ってほどではなく、むしろ狭い6畳部屋に精一杯大の字に寝転んで、窓からほんの少し覗く空をながめたりしながら。
クリス・レアの声はとてもしゃがれてはいるけれど、ブルースマンたちの音楽のようにざらついてはいないし重苦しくもない。むしろしゃがれた声質とは裏腹にやわらかで穏やかで、奇妙な明るさや爽やかさすら感じるのだけれど、数多いるAORのシンガーのようにただの甘い優しさでもなく。そんな不思議な立ち位置。抑制の効いた歌い方で感情を表に出さず、けれど感情を圧し殺しているわけでもなく、淡々と歌う中に諦念の感情は感じるけれど、それは絶望とはまるで違う種類のもので。
聴いているうちに、青い空に吸い込まれて溶け込んでしまうような気がして、30年も40年もがあっという間に過ぎてしまうような気分になったものだった。

そして、実際あれから30年以上が、思い返せばあっという間に経ってしまった。
1986年の夏と今年の夏、果たして一体何が違うのだろう。あの頃から失ってしまったもの、あの頃はまるでわからなかったこと。変わってしまったこと、今も変わらないもの。それを成長と呼んでいいのかどうかはよくわからないけれど。
あの頃50歳を過ぎた自分の姿なんて想像もつかなかったけれど、現実に50才を過ぎた自分が紛れもなくここにいて、それがなんだかとても奇妙な気がする。うまくは言えないけれど、心の底をうわぁぁぁーっとかきむしりたいような気分になる。それは、そんなに悪い感情ではないのだけれど。

それにしても暑かったねぇ、今年の夏。
実際まだまだ蒸し暑くはあるのだけれど、暦は処暑。暑さが止まるところ、という意味だ。
どんなに暑い夏だって、やがては穏やかに過ぎていく。
それも、決して悪い感情ではない。
穏やかに過ぎていく。
その景色を、かみしめるようにゆっくりと味わえそうなほどには大人なったのだろうか。
っていうか、実際のところ、暑いのはもううんざりなんだけどー(笑)。








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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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