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♪橋の下 ー宇治川橋26才ー

「これ、いけそやな。」
「だいじょうぶでしょ。」
「3万、山分けな。」
前輪にロックがかかっているけれど、前輪をひょいと持ち上げればバイクはするすると動く。
ロックはあとでぶち壊す。
プレートは工具を使えば簡単にはずせる。

その時だ。
「オイッ!何しとんねん!」と叫び声。
続いて、
「タカっさん、やばいよ。逃げよう!」
と、ヒロユキ。
2階のベランダから若い男が何か叫んでいる。
僕たちはその場に運び出しかけていたバイクを置いて、トラックに乗り込んだ。
「やばいかな、ナンバー、控えられてない?」
「何も盗ってへんもん、大丈夫や。でもな。」
「ん?」
「この仕事、ヤバいよな。やっぱり。タケイの言うようにうまいことはいかんわ。」
「現場で地道に働いて得る報酬の方がまっとうかもな。」

そもそもは、同じ現場で働いていたタケイが持ってきた話だった。
なんでも、中古のバイクを回収すれば、あるおっさんがそのバイクの価値に応じて買い取ってくれる、という話。キャリー付きのトラックは貸し出してくれる。通勤する必要はなく、トラックは自宅に乗って返ってOK。ただし、ガソリン代は自分持ち。
「儲かるよ、けっこう。カブなんかだと1台で3万。一時期さ、原チャリってみんな持ってたやん。でも、今は乗らんようになってるのって結構家にあって、むしろ処分に困ってるらしいよ。ま、安いのもあるけどな、それでもこないだもちょっと2時間ほど流しただけで5台回収できて、ざっと2万ちょっとになったし。そんなおいしい仕事したら、現場であくせく土方なんかやってられへんで、思わん?」
「そんな中古のバイク回収して、どないすんねやろ。」
「修理して、東南アジアとか中国に売るらしいで。あっちの方、今だんだんと文化的になってきてるやろ。自転車からバイクに変わってきとんねん。日本人と違うて、ボロでも乗りよるから、あいつら。」
「なるほどな。需要はありそうやな。」
「紹介したんで。人手もっとほしいっておっさんゆーとったし。」

と、そんなことで、僕はタケイの話に乗った。
いっしょにバンドをやっていたヒロユキもその話に乗ってきた。
ところが、だ。
流しても流してもいっこうに声がかからない。
「今日、ボウズやで。5時間くらい流したけど。」
「スピード早いんちゃうか?」
「いやー、かなりスロウ。」
「ほんなら、回る地域が悪いねん。じいさんばあさん多いとこの方がええわ。息子が昔乗ってたとかな。」

「あかんわ、今日も。声かかったと思うたら、金にならん奴ばっかりや。」
実は、バイクにも金になるのとならないのがあった。スーパーカブは3万、メットインできるタイプは1万とかなのだけど、メットインではないタイプは逆におっさんに処分費用を払わないといけない。
要は、買い取りますと宣伝して流しながらも、費用がかかるタイプについては逆に顧客から金を貰ってこないといけないのだ。
「あぁ、これはね、回収対象外なんですよ。もし邪魔にしてはるんやったら5000円で処分しますよ。」とかなんとか言って、おっさんに払う処分費3000円との差額でなんとか儲けなければいけない。もちろん買い取り額も言い値でOK、カブを1万円が相場だとかなんとか言って買い取ってこれれば、差額2万が収入になる、という仕組み。
これが結構難しい。
費用がかかると言った途端に「じゃあええわ。」なんて反応がほとんどで。
それでもなんとかコツを覚えて、ガソリン代くらいは儲かるようにはなってきたものの、日当としては明らかに現場で働いているほうが確実に収入になる。

「やっぱり、どーもうまいこといかんわ。」
「しゃーないなぁ。取って置きの手、教えたろか。」
「え、どないすんねん?」
「まずは、マンションとかの駐輪場で金になるバイクの目星をつけて、回収しますのチラシをはさむ。で、3日後に再訪問。同じまんまチラシが残っとったら、そのバイクはほぼ持ち主不明や。」
「え?」
「黙って持って帰っても、わからん。」
「それって・・・」
「下手こいたらお縄やで。」

ビビったけど、もはや背に腹は変えられない。
で、タケイの言うようにやってみようとした。
なるほど、難しくはなかった。
実際、持ち主不明で放置したままのものもあったんだろうと思う。ただ、どう考えも正しい行為ではない。


僕とヒロユキは、何とか逃げきることができた。
それから、河川敷にトラックを停めて、橋の下で涼んだ。
向こう岸の橋の下には、ルンペンのおっさんの姿。
「あのおっさん、どんな人生送ってきたんやろな、ああなるまでに。」
「・・・。」
「こんなことしとったら、ああなるんかもな。」
「そやな。」
「おかん、泣くな。」
「彼女もな。」
「俺らには向いてなさそうやな。」

何にもない、橋の下。
最初の会社を辞めて3年目。
いつの間にか、こんなところまで堕ちてきた。
このままこうやって、堕ちていくのかな。
堕ちるところまで、ズブズブと。
それでいいのか?
まだ何にも始まってもいないのに。
そろそろ潮時なのかもしれない。
そろそろ。
川面には、流れてきた空き缶が浮かんだり沈んだりしていた。
やがて、渦に引っ掛かってくるくる回り、沈んでいった。


“橋の下” ローザ・ルクセンブルグ

20171013084019c98.jpg
ROSA LUXEMBURG Ⅱ / ローザ・ルクセンブルグ


※この物語は、事実にヒントを得たフィクションです。
堕ちるところまで堕ちた気がして、真面目に働きはじめたのは本当です。


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コメント

[C3112]

波野井さん、こんばんは。
台風が去ってもまた雨です。
「橋の下」、無職の頃にはすごく見につまされた歌です。
どんとさんもたぶん、鴨川を思い浮かべて作ったでしょうね。

  • 2017-10-24 23:52
  • golden blue
  • URL
  • 編集

[C3111]

橋の下、泣けます(><)。
以前、京都行ったとき、これ聴きながら橋を渡りました。
それがやりたくて(^^;)。

今回も、沁みるお話でした(><)!!
  • 2017-10-22 19:30
  • 波野井露楠
  • URL
  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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