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♪鉄橋を渡る ー大和川鉄橋17才ー

「歩いて帰れるんちゃう?」と言い出したのは真人だったか、啓介だったか。
高校2年の僕たちは、家で親となんか正月を迎えてられっかよ、と大晦日に住吉大社へ初詣に行くことにした。夜8時に地元の駅に集合、住吉大社までは電車で30分くらい。
人混みにもみくちゃにされながら、神社の本殿までたどり着いて、なんとかお賽銭を投げて、おみくじをひいて、そこまではまぁよかった。
ひととおりの行事を済ましてしまうと、もうすることがなくなってしまう。まだ午前2時半。
当時はまだオールナイトの電車なんて走ってない。コンビニもファミレスもゲームセンターもない。
「なー、どーするー。」
「家まで歩いて帰れるんちゃう。」
「そら、歩けんことはないやろーけど。」
「ここにおってもしゃーないやん。ぶらぶらしてるうちに始発も来るんちゃう。ここにおっても寒いだけやし。」
「道、わかる?」
「電車沿いに歩いていったら何とかなるって。」
そうして僕たち3人は歩きだしたんだ。

最初の1時間くらいは順調だった。線路を横目に線路沿いの道路を、くだらないことを言い合いながら歩いた。
が、しばらくすると、線路沿いの道が行き止まりになってしまう。
川だ。
一級河川・大和川。
大阪市内でも淀川に次いで大きな川だ。
川幅は100mはあるだろうか。
道は行き止まりになり、はるか向こうの方に自動車が渡れる橋がかかっている。
「おい、どーするー?」
「あの橋まで行くんかー」
「ちょっと遠そうやな。」
線路の先には鉄橋が架かっている。もちろん鉄道専用。
目の前には踏切があって、踏切からは線路内に入ることができるといえばできる。
「どーせ電車けーへんし、鉄橋渡ろうぜ。」
そう言ったのも、真人だったのか啓介だったのか、それとも僕だったのか。
高校2年生。みんな意気がり盛り。お前より俺の方が度胸がある、とみんな思っている。或いはそう思わせたいと思っている年頃だ。びびっているところは見せたがらない強がりな少年たち。
「そうしよ、鉄橋渡ろ。」
「まじで?もし電車来たらどーすんねん?」
「けーへんって。何や、怖いんか。」
「いや、そーゆーわけでもないけど。」
「あんな向こうの橋まで歩くん、だるいで。ここやったらすぐや。」
「よっしゃ、そーしょ。」

そして3人は線路内に入る。

下が川原のうちはよかった。
突き落とす振りをしてふざけたりしなががら歩いた。
あ、あんまり怖くないやん、って思った。
ところが、川の上に差し掛かると、とたんに風が強い。突風がびゅうと吹く。もちろん真冬の冷たい風。吹き飛ばされそうになる。
足元の枕木と枕木の間には何もなく、その下には真っ黒で冷たそうな川が横たわっている。
数十メートルはあるだろうか。

足を滑らせたら一巻の終わりだ。

そう思いながら一歩一歩枕木を見る。
前を見る余裕がなくなる。

もし、電車が、もし万が一、例えば点検とか車庫入れの回送とか、来たらどうしたらいいんだろう。
飛び込む?無理だ。真冬の川だぜ。泳げない。ってか、何メートルある?
枕木に寝転べば、体の上をぎりぎり電車が通過してくれるのかな。
でももしひかれたら?はねられたら?飛び込むのとどっちが助かる可能性がある?どっちにしても死ぬとしても、どっちが痛くない?
冷たい風が吹き付けているのに、脂汗が出てきた。
いらんこと考えてる場合じゃない、一歩ずつだ。
前を見ると真人がすたすたと渡りきってこっちに手を降っている。後ろから「おーい、待ってくれやー。」と啓介の声。だけど振り返る余裕がない。振り返ったらとたんにバランスを崩しそうで。
一歩一歩、一歩一歩だ。


数分後、僕たちは、放心状態で道端に座りこんでいた。
「よーこんなとこ渡るわ。あほちゃう。」
「まじでびびったわ。正直。」
「電車来たら飛び込むしかないんか、思ったわ。」
「あ、俺も。」
「正月そうそう何しとんねん、って感じやな。」
そう言って笑ったのだけど、心のどこかはまだどこかひきつった感じが残っていたのか、正直うまく笑えなかった。
みんなそうだったんだろう。安心した途端に歩く気力が萎えた。
その時、通るはずがないと決めつけていた電車が向こうからやってくる。始発の駅へ向かう回送電車。
僕らの背中がピキピキと凍りついたのは言うまでもない。

結局僕らは、それから先はほとんど歩けずに、小さな駅で電車を待ち、始発に乗って自分たちの町まで帰った。



今もときどき、電車で鉄橋を越えるときにこのことを思い出すことがある。
一歩間違えば死んでいた。馬鹿だね。
でも、あのときのことは時々役に立ったりもする。
修羅場をくぐり抜けるときは、一歩一歩だ。振り返らず、前を見すぎず、全神経を集中させて一歩一歩。そうすれば必ず乗り切れる。
そう考えると、あまり恐いものなんてないような気がするのだ。


“鉄橋の下で”

20171011000658e2b.jpg
Four Pieces / The Roosterz

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コメント

[C3102]

波野井さん、ありがとーございます。
ちょっとフィクション風に書いてみたのですが、この程度の構成力や文章力のある人はごまんといらっしゃいますので、、、

実はこの、経験に基づくフィクション風、しばらくシリーズで続きます。。。
  • 2017-10-12 00:14
  • golden blue
  • URL
  • 編集

[C3101]

こんばんは!
何かに応募しましょう!!
すっごく引き込まれました。
読んでて、景色が浮かんできます。
そこにあるだろう空気感も一緒に
伝わってきます!

鉄橋の下で失くした歌をさがすよ♪
BGM?エンディング?も
ばっちりですね(>v<)!
  • 2017-10-11 21:56
  • 波野井露楠
  • URL
  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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