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♪霧のサンフランシスコ ーゴールデンゲート・ブリッジ24才ー

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サンフランシスコの街は、思っていたより狭かった。
バス・ディーポがあるのは、半島の付け根にあたる南東部の端っこのダウンタウン。そこから中心街が広がり、坂道があって、有名なケーブルカーが走っている。ケーブルカーで丘を越えれば海だ。フィッシャーマンズ・ワーフがあって、シーフードを食べさせるレストランが並んでいて、ストリートでは大道芸人たちがあちらこちらでパントマイムやら手品やらをやっている。周りにはカップルや観光客。老いも若きも思い思いに休日を楽しんでいる。
僕はそのとき24才で、2年と半年少し勤めた会社を辞めてアメリカ横断の貧乏旅行に出ていた。

ゴールデンゲート・ブリッジは、フィッシャーマンズ・ワーフから西へ3、4kmくらいだろうか。ダウンタウンとは反対側、半島の北西側だ。
赤く塗られた長い長い吊り橋。
てくてくと海岸通の道を歩いてゴールデンゲート・ブリッジにたどり着いたのは、お昼をとうに過ぎていた。
橋の東側は金門湾、西側は太平洋、橋を渡ればマリン郡。橋が見える高台で橋の姿を見て一服。なるほど、霧のサンフランシスコと呼ばれるように、もやが立ちこめている。
それから、橋を渡ってみることにするのだが、橋の歩道に入るためには、橋の付け根まで1km以上ぐるっと戻るか、橋のたもとまで降りていって、ビルディングなら7、8階立てにもなりそうな階段をひたすら登らなければならなかった。橋の全長は2700mもあるそうで、とりあえず橋の歩道を歩き出しはしたものの、橋の真ん中までたどり着くまでにすっかり疲れて果ててしまった。
あー、しんど。もうこのへんでええか。
向こうまで渡ったところで引き返してくるだけやしな。

そのときだ。
向こう側から、男がけっこうなスピードで走ってきた。
青いシャツに赤いタイツ。背中にマントをなびかせている。
え?スーパーマン?
いや、そんなはずはない。
コスプレか?
男は僕のそばまで駆け寄ると、笑顔で手を上げ、そしてそのまま欄干に足を掛けてその上に上り、仁王立ちになった。
「Ha,Ha,Ha,Ha,Ha!Hello!」
と大きな声で笑う。
「Hey,Boy!Come on with me!」
え、なんだこれ?
ドッキリか?
そんなはずはない。
この男は?
僕がうろたえていると、男は僕に敬礼をし、海の方を向き、両手を高く上げる。
そして、大きく深呼吸をしたあと、海に向かってジャンプした。

僕はただ呆然と男を見送る。
海に架かる橋の上。
とても強い風。
男は波しぶきを上げて海に消えた。




・・・という話を、サンフランシスコのユースホステルで知り合った男から聞いた。
ゴールデンゲート・ブリッジは有名な自殺の名所だったらしい、ということを僕はそのとき初めて知った。
男は、自分の人生を最後にドラマチックに仕上げたかったのか。もはや正しい判断などできないほどに心に深い闇を抱えていたのか。

ゴールデンゲート・ブリッジの自殺者は累計で1500人を越えるのだそう。これは死体が回収された人数であって、実際はもっと多いと言われているらしい。
自殺防止のため長い間、防御ネットの設置などが要望されてきたものの、景観を損ねるなどの理由で実現していなかったが、ようやく着工させるそうだ。
完成は2018年。今は自殺防止の呼び掛けのポスターがあっちこっちに貼られているそうだけど、思い詰めて自死を選ぼうとしている人に、果たしてどんな言葉をかければ思い止まらせることができるのだろうか。

“Now I know, I should have never walked over the bridge I burned”って、エルヴィス・コステロが歌ってる。
燃やしてしまった橋は二度と渡れない、って。


“The Bridge I Burned” Elvis Costello

20171010073810b61.jpg
Extreme Honey / Elvis Costello



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コメント

[C3106]

波野井さん、毎度ですー。
コステロのこの曲、どことなくメランコリックなところがテーマに合うかな、と。完全に後付けですが(笑)。

この橋は、両側二車線で車がビュンビュン走っているような橋なので、怖くはないですよ。欄干に立ったりさえしなければ。
  • 2017-10-15 23:58
  • golden blue
  • URL
  • 編集

[C3105]

「The Bridge I Burned」ですね。

同じメロディの繰り返しがくせになります。

サンフランシスコは行ったことがないのですが
高所恐怖症の自分には
橋を渡るどころか、橋の上にも行けなそうです(^^;)。
  • 2017-10-15 18:40
  • 波野井露楠
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  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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