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♪Some Guys Have All The Luck ー三条大橋18才ー

「あーあ、やっぱり1こでも年上の方が、頼りがいがあるように思うんかねー。」
そう言いながら、スミトが川へ石を投げる。
京都・鴨川・三条川原。
その年の春、僕らは大学に入学して京都へ来た。
メグちゃんはクラスのマドンナ的存在で、僕もスミトも、好きとかつきあいたいとか思うほどではないにせよ、漠然とした憧れを抱いていた。
そんなメグちゃんに彼氏が出来たと聞いたのは秋になってしばらくたった頃。男は同じクラスの、浪人して入学したひとつ上の男だった。
居酒屋へ行く金もない僕たちは、バイトが休みの木曜日、缶ビールを買って川原でへたりこんでひとしきりボヤく。
「あんな奴のどこがええんやろうなー。たいして男前でもないし。」
「わからん。多分、女の子には優しいんちゃう。」
「パッと見、しっかりしてるように見えるんやろな。」
「そんなに骨のあるタイプでもないけどな。」
「女って、男のどこ見てるんかね。」
「めっちゃ男前とかさ、めっちゃ金持ってるとかさ、そーゆー奴ならまぁしゃーないって思えるやん。でもなぁ、あいつかぁ?って感じするやん。ワケわからんな。」
「逆に、頼りなさが母性本能をくすぐるとか?」
「その感覚は、まったくわからん。」
「とりあえず凹むなぁ。あいつやったらお前のほうがましやで。」
「まし、って(笑)。」

だんだんと日が暮れてくる。握りつぶしたビールの空き缶が4本、5本、空になったポテトチップスの袋。
気がつけば周りはカップルばっかり。
この三条大橋のたもとは、誰でも知っているデート・スポットなのだ。
夕方からちらほらとカップルたちが川に向かって座りだし、やがてそのカップルとカップルの間にひとカップル、またそのカップルとカップルの間にひとカップルと、等間隔で距離が詰まっていくことでも知られている。
時間が立つに連れてどんどんと居たたまれなくなっていくむさくるしい凸凹コンビの野郎二人。
「俺、大学に入ったらすぐにかわいい彼女ができると思ってたんやけどなぁ。」とスミト。
「大学生って、もっと華やかだと思ってたよなー。」と僕。
「かわいい彼女ができてさ、その娘といっしょに銭湯に行くのが憧れだったんだよ。『神田川』みたいな、あーゆー感じで。」
「貧乏なとこだけやん、いっしょなのは。 」

1980年代半ば。時代はバブル突入期。
マル金マルビだとか、軽薄短小だとかそういうのがもてはやされた時代。高校時代に聖子ちゃんカットだった女の子がいきなりワンレンボディコンに変身したりして(笑)、今じゃ当人にとっても笑いのネタになるような黒歴史なんだろうけど。金も車もセンスもない僕たちは、本命どころかアッシーメッシーにすらなれなかった。

「そういうのは望まんけどさ、せめて在学中に、この川原へ彼女と来て、いちゃつきたいよなー。」
今思えば、そんな飢え丸出しのギラギラした男に女の子たちがよりつくわけもないんだけど。

何もかも思うようにいかず、どうしていいかもわからず、ただうだうだするしかなかった18才。
まだまだ自分が何者かもわからないまま、ただただもがいていた18才。
僕らは橋の真ん中から追いやられて、橋の下へ。

「ロッド・スチュワートのあの曲が、今の気持ちになんかしみるよな。」
「あの曲って、どの曲よ?」
「サムガイズハブオ~ザラ~、って奴。去年けっこう売れたアルバムに入ってて、MTVでもけっこうやってた曲で。」
「ジェフ・ベックが参加してたアルバム?」
「それの3曲目。」
「あー、“Some Guys Have All The Luck”な。」
「あの歌の歌詞知ってる?“何人かの男たちだけが幸運を独り占めしてる、残りの奴は痛みだけ。あいつの腕には彼女がいるのに、俺の腕の中は空っぽ。”みたいな感じの、ダメダメ男の歌なんよ。」
「へぇ、そうなんや。てっきりモテモテのロッドが、俺はこんなに幸運だ、みたいなことを歌ってるのかと思ってたよ。」
「そう思うやろ。でもそうやないところがな、ロッド・スチュワートのかっこええとこやと思わん?」
「まぁな。」
「ロッドだって、昔からモテモテってわけでもなかったらしいぜ。少年時代は貧しくて、日雇労働の墓掘り人夫とかいろんな仕事を転々として、小汚い格好で放浪しながらフォーク歌ってたりしてたらしい。」
「それが、今や、金髪のお姉ちゃんをはべらかせるスーパースターか。」
「報われない青春時代を送った奴の方が、ちやほやされてた青春時代を送った奴よりも、打たれ強くて優しくなれる、ってさ。」
「いやぁー、そんな先の事どうでもいいから、今ちやほやされたいよ。。。」

“Some Guys Have All The Luck” Rod Stewart

201710090812050df.jpg
Camouflage / Rod Stewart

あれから気の遠くなるような時間が過ぎて。
スミトとは大学卒業以来すっかり会ってないけど、風の噂では卒業してからすぐに出会った彼女と結婚して、今じゃ小さな会社で取締役をやっているらしい。
僕もそれなりに結婚してそれなりの仕事を得てそれなりの暮らしをすることが曲がりなりにもできている。
そしてロッド・スチュワートは、落ち目になったり喉を手術したりといろんな紆余曲折を経て、今も変わらず歌っている。ロッドの歌は今もチャラいけど、その奥に悲しみや慈しみの気持ちが静かに潜んでいることも今も変わらない。



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コメント

[C3104]

波野井さん、こんばんは。
ロッドのこの曲、パースエイダーズのカバーでロバート・パーマーもカバーしてたんだそうですが、当時はそんなことも知らず、ロッドかっこいいなぁー、と思いながら聴いてました。
  • 2017-10-15 18:16
  • golden blue
  • URL
  • 編集

[C3103]

いいなあ。
今回も沁みるなあ(^^;)!!

この展開でロッドかあ(^^;)。
やられました(^^;)。

そうそう、自分もあこがれました
神田川(笑)。
  • 2017-10-14 23:44
  • 波野井露楠
  • URL
  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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