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♪ブルース・スプリングスティーンが大好きだった / Working On A Dream

Working on a Dream

Working on a Dream/Bruce Springsteen

中古CD店でたまたまこのアルバムを見つけて思い出した。
前作“MAGIC”から一年という短いスパンで発表されたこの“Working on a Dream”・・・今年の1月に発売されたこのアルバムをまだ聴いていなかったということを。

このブログの一番最初の記事 に書いたように、僕はブルース・スプリングスティーンが大好きだ。
そんな自分がまだ新作を聴いていなかったという事は、もはや「大好きだった」といったほうが正しいのかもしれないのだが。
思えば、スプリングスティーンの新しいアルバムを聴くたびに失望し続けてきたような気がする。
ぎっしりと詰め込んだ言葉をマシンガンのように発射しながら路上を駆け抜けるような“Born To Run”や、地面に足をしっかりつけて自分自身のスタンスにたっぷり自信を持った“Born in the U.S.A”までの作品に比べ、90年代以降の作品については、どこか迷いやふっきれなさやなんともいえない中途半端さを感じて、何度も何度も聞き返すことがなかった。
例えばストーンズなら、マンネリと言われようと堂々とかつての黄金フレーズを繰り出して「俺たちはこういうのが大好きなんだぜ」と言い切ってしまうしたたかさを持っているのだが、スプリングスティーンはとても誠実だから、アルバムにはそのときの自分自身の状態を隠さない。だから、作品ごとに大きな揺らぎやばらつきが出てしまう。同じようにそのときの状態で出来不出来が大きく変わってしまうアーティストにニール・ヤングがいるけれど、ニールがそういう気まぐれでぶっきらぼうな部分も含めて自分のアーティスト・イメージとしているのに対してブルースは、自分に求められているものがタフでポジティヴなロックンローラーであることをじゅうぶん知っているから、そのときの自分自身が一番に歌いたいと思ったものと、聴衆が求めるものの間で揺らぐことになる。自分自身にも聴衆が求めるものにも誠実であろうとするが故の煮え切らなさ。それが結果、中途半端な印象を与えてしまうのかもしれない。
まぁ、とにかくそんなふうに、僕はだんだんとスプリングスティーンの“現在”から遠ざかってしまったのだった。

そして、このアルバム。
相変わらず、切れ味のないぼってりとしたサウンド。或いは妙にカントリーっぽいアレンジ。曲調としては60年代風、“The River”の頃の雰囲気に近いのだが、どうもこのブレンダン・オブライエンの音作りはあんまり好きじゃないんだなぁ。
あちこちの資料によると、このアルバムはオバマ大統領の民主党政権支持のメッセージが詰め込まれたアルバムなんだそうだ。希望へのメッセージにあふれたとてもパワフルなアルバムだ、と。
例えば表題曲では、こんなふうに希望が歌われる。

夢を信じて努力を続ける/時々それはとても遠くに感じるけれど/夢を信じて努力を続ける/いつかきっと叶うのだから・・・

確かにそれは、とてもポジティヴでパワフルなメッセージだ。
多くの人はそんな言葉に励まされ、勇気を得るのだろう。
けど、ポジティヴでパワフルな歌を歌うときでさえ、スプリングスティーンの声はどこかとても拭いきれない悲しみに浸されているような気が僕にはするのだ。希望を歌ってはいるけれど、それは決してすかっと晴れた青空のような希望ではない。むしろ、冬の空の、雲のすき間に少しだけ見える薄い水色の空のような、儚げで心もとない希望だ。
そして叶えようとしている夢は、とてもささやかなものだ。間奏のクラレンス・クレモンズの口笛がそれを象徴しているような気がする。
時代は、希望を歌わなきゃいけないほどに追い詰められていて、それでも希望を歌うしかないのだ。
ブルースはそう歌っているように聴こえる。

このアルバムがポジティヴでパワフルに聴こえるとすれば、それは聴き手の幻想じゃないのだろうか?
スプリングスティーンが、何の疑いもなくきらきらした希望を歌ったことは一度だってない。
スプリングスティーンが歌ってきたのはいつだって明りの見えない真っ暗闇の場所からの報告だったり、追い詰められた場所からの嘆きや叫びやぎりぎりの希望だったのだから。
ただ、そんなスプリングスティーンの歌は、誰かの心に確実に明りを灯したし、そのことをスプリングスティーン自身もよく知っている。
だからこそ、スプリングスティーンは、その求められている救世主のような役割に、これからも応えようとしているのだ、とこのアルバムを聴いて思った。
それを全うすること、多くの人々の期待に応えることが自分の使命なのだ、と。
そして、このアルバムのなんともいえない軽やかさ、どこかすっきりこざっぱりしたした感じは、そのことを受け入れた潔さ故なのではないのだろうか、と。


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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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