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♪生きてることが辛いなら

このことを書くべきか、書かないでいるべきか、或いはどう書き留めておこうかととても悩んだけれど、自分自身のために書いておくことにする。

一週間ちょっと前のことだ。
しばらく前まで同じ職場で勤めていた男(仮にHとする)が、自殺した。首吊りだったそうだ。
四月ごろからは鬱病で休職していた、ということは知っていた。同じ職場で働いていた頃のHの印象は、明るくてユーモアのある優しい男だったから、そのHが鬱ということ自体、なんだか狐につままれたような感じはしたのだけれど、こんなことになってしまった今振り返ってみると、Hのユーモアは太宰の『人間失格』の主人公みたいなユーモアだったのだろう、と思う。心の奥底の柔らかい部分をさらけ出さないための武装としてのユーモア。本当はとても繊細な奴だったんだな。そんなこと、僕は全然気づきすらしなかった。

どこの会社でもそうなのかはよくわからないけれど、事業が右肩上がりに伸びていかない中で、働き手は、より少ないコストで最大の効果を挙げることを求められている。そんな時代だ。「給料は能力給ではなく年齢に応じて上がっていくのだから、それに応じた生産性を上げつづけて行かなければならない。」「そのためには、自分自身が成長し続けなければならない。」そんな、一見道理の通った論理を振りかざしながら、組織は僕らに変革を迫る。安穏とした暮らしをさせてくれない。給料が下がったっていいや、という呟きは「そんな意識で仕事をするなら迷惑だ、一生懸命頑張っている人間にぶらさがっているのなら辞めてくれたほうがいい」という、これも一見道理が通っているかのような目茶苦茶な理屈にかき消されてしまう。
Hも、どちらかといえば業績はさほど良くはない男だった。能力が劣っていたとは思わないが、ここという時に突っ込めない詰めの甘い男。だから変革を迫られて彼なりに追い込まれ苦しんだのかもしれない。異動するときのあいさつでは「新しい環境で一からやり直してみたい」というようなことを言っていたH。なのに、その言葉は、たった半年もしないうちに、果たされることがなくなってしまった。
本当のところ、Hの中で何が起きたのかはよくわからない。
何をそんなに絶望してしまったのだろう。
或いは、鬱の果てに気の迷いみたいにふらっと迷い込んでしまったのか。
残された家族が可愛そうだとか、親から授かった命を粗末にするなんて、なんてありきたりのお説教をするつもりはないし、 だからと言ってお前の辛さはわかるよ、なんて慰めたくもない。
矢沢永吉が大好きで、毎年半ば無理矢理に休みを取ってはライヴに行っていたH。
矢沢が好きなら、ロックが好きなら、はいつくばってでも生きろよ。「成りあがり」や「アー・ユー・ハッピー?」に、自殺のことなんてどこにも書いてなかっただろうよ。この大バカ野郎!
・・・なんて・・・、奴が生きていたら、思いっきりお説教してやるのに、それがもはや叶わないのが信じられない。

生きてることが辛いなら

生きてることが辛いなら/森山直太朗

「生きてることが辛いなら/いっそ小さく死ねばいい/恋人と親は悲しむが/三日と経てば元通り 」と歌われるその歌詞は自殺賛美だと物議をかもしたこの歌。
確かに一番の歌詞は、身内や親しい人が自殺した経験のある人などからしたらとてもやりきれない、心ない歌詞、過激なフレーズだろう。何十年経とうが、残された人の人生は決定的に変わってしまうのは確かで、決して元通りにはならない。けど、実際生きている人間は、眠くもなるしおなかも空くし、生きていくためには日常生活に戻るしかないのだ。死んだ人間と違って、生きていくために。このフレーズはそんなことを意味しているのではないかと僕は思う。
そんな衝撃的なフレーズばかりが取りざたされてしまうけれど、すべて聴き通した上でこの歌を通じて伝わってくるメッセージは、どんなに無様でもとにかく生きろ、というメッセージだ。
生きていることの価値や意味や重みや、そんなことは二の次で、とにかく生きること。
意味や価値や重みなんてものがなかったとしても、とにかく生きること。

冷静に将来を見渡してみれば、明るい材料より暗い材料の方が多く、よほどの能天気でもない限り明るい展望を描きにくい時代だ。ナイーヴな人間にとっては生きにくい時代なのかもしれない。
でも、心を固く閉ざして完全武装してしまえるほど人間は強くない。
悲しいことがあったら涙を流して泣いて、苦しい時にはわめいて足掻いて、理不尽だと思えばかみつき、嬉しい時にはニコニコし、面白いことには夢中になる。そんなちゃんと伸び縮みする心を失いたくない。
くたばる日まで、そうやって喜怒哀楽を積み重ねていくこと。それだけで充分だと思うことにする。
僕はまだまだ生きていたいから。




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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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