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♪Search and Destroy

「大城直俊さんですね。署まで任意同行願えますか。」
ギターを抱えてスタジオへ行こうと扉を開けた途端、角から制服の男二人組が現れ、手帳をかざしてそう言った。
「え?何のことかよくわからないのですが?今から約束がありまして。」
「楽器演奏の合同練習ですね。その事でしたら問題はありません。」
「は?」
「駒田太郎さん、原達也さん、梨野亜里沙さん、みなさん署に同行いただいておりますから。」
「どういうことだ?」
「詳しくは署でご説明致します。ご同行をお願い致します。」
制服の男の口調は、丁寧だが有無を言わせない高圧的なところがあった。こういうのを慇懃無礼というのだろうか。この手合いは昔から苦手だ。
逃げるか?という考えが一瞬頭をよぎったが、やましいことなど何もない。同行する以外に選択肢はなかった。

思い起こせば、あの事件がきっかけだったのだろう。
2020年8月15日、東京駅、新宿駅、東京スカイツリーで同時に起きたテロ事件。合わせて2000人以上が死亡した大事件は、無事成功裏に終わった東京オリンピックでの覚めやらぬ興奮を嘲笑うかのように起こされた。オリンピック後に警備が手薄になることを待ち構えていたのだろう。インドネシア人を中心とするイスラム過激派の仕業とされたが、結局犯人は捕まらないままだった。
あれから一気に、一般市民への監視が厳しくなった。あらゆる主要駅の改札に検問所が置かれ、電車に乗るためには行列に並ばなくてはならないことなった。終戦記念日という日本人にとってとても大切な日に首都が狙われたということもあってか、そのことを多くの国民が支持をした。
やがて政府に批判的なコメントを書いたSNSのアカウントが次々と削除されはじめ、翌年の夏にはそのことに対して反対の声をあげた国会前でのデモの参加者たちが、テロ等準備罪で現行犯逮捕される事件が起きた。
そして、今のような密告社会が始まったのだ。

取り調べを経て、僕たちは書類送検されることになった。
罪状は、テロ等準備罪違反。
直接的な証拠として、先月のライヴで演奏したある曲のビデオが提出されていた。
イギー・ポップ&ストゥージースの“Search and Destroy”。この曲を一部日本語にして歌ったのが、テロ等を思想的に支援している、扇動的だとされたというわけだ。善意の人からの告発があったと警察は言っていた。
そんな意図などまるでない、僕たちはただ好きなロックを演奏しただけだ、という主張は受け入れられなかった。
取り調べの中では、僕が匿名で書いているブログの記事での、アナーキーやARB、セックス・ピストルズやクラッシュの記事までもが、反社会的であり暴動を扇動している思想の根拠とされたのだ。

結果的には不起訴処分となったものの、僕たちのバンドは解散せざるをえなくなった。
ドラムの達也は「ひどいめにあったぜ。だからパンクなんて今時流行らないって言ったんだよ。」とバンドを去っていった。ベースの亜里沙も「もう無理っぽいよね。」って。ギターの太郎だけは「あいつら、俺たちの演奏がかっこよすぎてムカついたんじゃね。」って強気なままだったのだけど、じゃあとりあえず二人で演ってみるか、ってライヴ・ハウスのマスターのところへ相談に言ったら、「警察から通達があってな、すまん、俺もこの店で生活していかなきゃいけないから、、、。」って。
そうか、あいつらそうやって人の心の弱さにつけこんで、人々を分断していくんだな。たかが若造のやることにもこうやって牽制球を投げ込んでくるのはそういうことなのか。
従うしかない一般市民は、お上のすることにモノが言えなくなっていく。
Search and Destroyと叫んでいた僕たちのほうが、探しだされ、ブッつぶされたなんて、くだらないジョークみたいだ。

マスターは「やっぱりあのときに、もっと反対しておかなくっちゃいけなかったんだ。」と悔いていた。
オリンピックが始まる3年前の2017年6月だったそうだ。当時の政権与党が、数の力に任せて強硬採決を行ったのだ。首相は「オリンピックを成功させるためには不可欠な法律だ」と主張し、「一般人が捜査の対象になることはほとんどゼロに近い」と発言していたのだそうだ。一部のマスメディアや野党は「戦前の治安維持法のように、政府が恣意的に運用できる」「言論の自由が侵害される」と主張してはいたものの、当時の国民はほとんど無関心だったそうだ。海外でも大きなテロ等が続発していたし、中国や当時の北朝鮮や韓国といった国々との関係も悪化していたためか、キレイゴトじゃやっていけない、反対する人たちはあまりにおめでたすぎるという風潮も強かったのだそうだ。その頃はまだ、国防軍はなく自衛隊と呼ばれていて、憲法には非戦を謳った9条というものがあったのだそうだ。
テレビからは、「この国を守りたいのなら、ともに戦おう」と勇ましい言葉で、国防軍の採用募集のコマーシャルが流されていた。

20170616084003a76.jpg

“Search and Destroy” Iggy Pop & The Stooges


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[C3051]

名盤さん、こんばんは。
数の力に任せて誠意のかけらも感じない与党もうんざりですが、いまだに内閣不信任案だの牛歩戦術だのっていう古いやり方しかできない野党にもうんざりでした。
そもそも「テロ等準備罪」という名称を「共謀罪」と言い換えるマスコミもどうなんだか、と。
知りたかったのは、本当にこの法律がテロを未然に防ぐことに効果があるのかと、この法律が権力者に悪用されないのかどうか、だったのですが、結局政局に貶められてしまいましたとさ。
  • 2017-06-18 22:21
  • goldenblue
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  • 編集

[C3050]

deacon_blueさん、こんばんは。
>なし崩しはこの国の国技
っていうのは、言い得て妙、ですね。
コメントありがとうございます。
  • 2017-06-18 22:15
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3049]

今回の国会は酷かった。
いわゆる共謀罪、これには僕も反対です。
組織犯罪を抑止しするための新しい法律はいるかもしれないけど、今回の法案がそれだとは思えない。
与党議員もこの法案の実態はあまり理解してないんじゃないだろうか。
ただ一番の問題は、それでも次の選挙では多分自民党が勝つであろうということ。
だから彼らややりたい放題が出来てしまう。。

[C3048] 管理人のみ閲覧できます

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[C3047]

Bach Bachさん、こんばんは。
あきれてモノも言えない状態なので、うだうだ言うよりもと 、稚拙なショート・ストーリーですが、2025年とか2030年をイメージして書いてみました。
まったく、こんなことにならなきゃいいんですが。
  • 2017-06-16 23:24
  • goldenblue
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  • 編集

[C3046]

本当にゲンナリしますね。もう、言葉では言いあらわせない。
  • 2017-06-16 10:19
  • Bach Bach
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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