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◇世界全史

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世界全史 「35の鍵」で身につく一生モノの歴史力 / 宮崎正勝

娘が高校に通いはじめまして。
まぁいろいろあって、ろくに受験勉強もせずに行ける通信制に近いような高校へ。
個人的に受験勉強には懐疑的でね、あんまりやいやいと言う気になれなかった。僕自身も嫌々やってたからまるで身につかなかったんだけど、だからって社会生活で困ることなんて何にもないし、いわゆる偏差値が高くないと行けない大学へ行っていた人たちが、だからって頭がよいわけではないことや、受験勉強当時に詰め込んだ知識なんてほとんど忘れてしまっていること、中卒高卒でもとても頭がよく知識も豊富な人がたくさん社会にいらっしゃることも知ってしまったし。結局学校っていうのは一生勉強していくための方法を学ぶところだと思うんだけど、受験勉強がそういう役割をちゃんと果たしているとは思えなくってね。

勉強が嫌い、というわけではない。っていうか、自分で言うのもなんだけど、勉強そのものはけっこう好きなんですよね。自分で言うのもなんだけど、って前置きをしなくちゃなんだか傲慢なことを言ってしまっているような気がしてしまうのがすでにこの国の国民と勉強の関係を表しているような気もするんだけど、子供の頃から知らないことをすぐに調べたりするのが好きだったみたい。鳥や虫の名前を覚えたり、星や元素の名前を覚えたり、世界の国の名前や首都や国旗を覚えたりね、そういうのも大好きだった。
なんていうか、とても単純に、知らなかったことを知るっていうことは楽しいというか、そういう快感ってあると思うんです。
特に地理や歴史は大好きなんですが、学校で習った世界史はとてもつまらなかった。なんかね、ややこしい人物名と年号を暗記するだけの科目、って感じ。
要は個々の事象だけにとどまっていて「流れ」や「つながり」が見えなかったんですよね。それと、いわゆる西洋中心史観。
改めてこういう本を読み直してみると、そういうことがよくわかる。
今の時代はアメリカが世界で幅をきかせていて、資本主義と議会制民主主義、自由や人権、個人主義も含めて西洋的な価値観が当たり前になっているから、イスラムの国々や中国のやることがすごく不可解なことのように思えるけれど、アメリカなんてたかだか300年にも満たないポッと出の新興国家、西欧だって11世紀までは森林に覆われた辺境だったのであって、それより以前には500年以上もイスラム帝国が世界を牛耳っていた時代があったということ、中国だってこの200年ほど西欧に圧されているだけでずーっと東アジアの中心であり続けていたこと、そもそもイラクとイランとインドと中国は文明発祥の地だしね、そういうことを改めて知ると、彼の国には彼の国の論理があって行動原理が違うのも当然のことに思えてくる。
ロシアとモンゴル帝国の関係もなるほどと腑に落ちたひとつで、僕たちはロシアをヨーロッパの国だと思っているけど、あの国はモンゴルが遠征して平定したキプチャク汗国の地盤をそのまま引き継いでいるんだね。同じようにモンゴル帝国の遺産を引き継いだトルコとロシアの間でのいざこざや、モンゴル・トルコ的支配の影響があった旧ビザンツ帝国エリアと、それを免れた当時のユーラシア世界での辺境であった西欧・北欧エリアで考え方が異なることもよくわかる。そもそも西欧も日本の辺境だったからこそ中央からの干渉を避けることができたのだな。
大西洋での三角貿易が資本主義経済勃興の始まりだったこと、アメリカの独立が国民国家の始まりだったことにも納得。砂糖や紅茶、コーヒー、カカオ豆。そういう商品作物の生産のための労働力としてアフリカから奴隷が売買される。その儲けの蓄積が金融としてさらなる投資を生む。アジアやアフリカに輸出するための需要に応えるために綿紡績の工業化が加速され、原料の綿花を栽培するためにアメリカ南部にプランテーションが作られ、その労働力としてまたアフリカ人が運び込まれ、という増幅。こういうことを通じて中南米やアフリカ、東南アジアは否応なしに世界史に接続されていく。この当時、日本がこういうサイクルに巻き込まれなかったのは辺境だったからこそだ。
世界史と日本史の関係も授業ではほとんど教わらないのだけど、6世紀から7世紀にかけて大和朝廷の政権が成立することと同時代のアジアの動きの関係とか、宋が元に滅ぼされる過程と鎌倉政権へ与えた影響とか、当然16世紀のポルトガルやオランダが日本へ来た狙いや、幕末期に西欧が企んでいたことなども含めて、世界史との関係で日本史を捉えておくのは今の時代とても必要なこと。第二次世界大戦の勃発過程では、自国優先の保護貿易が戦争を招いたという記述もあって、今の時代とリンクするとトランプさんやヨーロッパでの自国最優先主義は不安に感じたりもするんですが。歴史の教訓に従えば、世界の覇権を握った国はその権力の肥大化故にやがて衰退していくのが歴史の常であって、そう考えると今のこの国のアメリカ追従姿勢っていうのはリスキーなんじゃないか、とか。

学校で教わったことのほとんどは断片的な知識だった。
でも、こうやって流れやつながりが見えてくると、単なる知識を知恵に変えることができるのかもしれない、という気が少し湧いてくる。
サブタイトルが妙に受験本的手っ取り早さが感じられてしまうのですが、それとは裏腹に、学校で暗記させられた事柄の向こうに実はこういう諸々があったんだな、と納得させられる一冊でした。


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[C3022]

非双子さん、こんばんは。
歴史を知れば知るほど感じるのは、ほんと何が正解なのかわからないってことですね。
そのときの解釈によって事実が変わる、同じ事実が切り取る角度で真逆になる。そーゆーものか、と。

歴史も地理も何でも、暗記って覚えようとしても覚えられませんよね。でも流れやつながりがわかれば自然に入ってくる。ロバート・ジョンソンがいて、マディー・ウォータースがいてストーンズがある。その逆はありえない。流れとつながりがわかれば当然のことなんですが、それがわからないとどっちもただの古い音楽ですから。
あとはやっぱり興味。
勉強なんて、押し付けられなくても興味さえもたせてくれたら、あとは自分で勝手にするんですがねー(笑)。
  • 2017-04-19 22:22
  • goldenblue
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[C3020]

学校の勉強って強制的なイメージが有りますよね〜
テストの点数が取れなければ、しかられるし、、

私は感覚で判断する性格なんで、暗記が重要な歴史や地理は苦手。
でも、好きなロックバンドの結成時期や出身地やメンバーなんかの記憶は出来るんですね(笑

我が家は居間のテーブルの横に、歴史年表や地図帳や各種辞書を置いてて、ネット接続のPCも常時ON。
テレビや新聞で疑問点が有ると、すぐに調べてました。でも、すぐに忘れる、、

この年になって判ったこと、
いろんな情報があるけど何が正解なのか解らない、ってことかな(笑
  • 2017-04-19 20:28
  • 非双子
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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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