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♪I Fought The Law

その日は朝からある工場への訪問で、某高級住宅街近辺の私鉄の駅で現地集合だった。
いつもより早起きして1時間半以上電車を乗り継いで、到着したのは集合時間10分前。
初めて降りる駅、あー、こっからまた車で移動して工場へ行くとなると、タバコ吸っとけるのはここしかないよね、ってんで、駅前へ。おおっ、向こうに公園があるね、人通りもないしここなら迷惑にならないよね、とようやく朝の一服を。
青い空、あったかい、煙が空へ昇っていく。
吸い終わって、携帯灰皿に吸い殻をしまおうとしたその時だ。
突然、制服を着たおじさんたち3人に取り囲まれた。
「ここは喫煙禁止区域なんですよ。」
そのうちの一人がそう言うんだ。
「あ、そうでしたかー。すいませーん。」
そう言って立ち去ろうとする僕を、またおじさんたちが取り囲む。
「ちょっと待ってください。喫煙禁止区域なんです。」
「すいません。以後気をつけます。」
「いや、あの。」
「???」
「当市では条例で喫煙禁止区域を設けておりまして、違反者には過料を徴収しているんです。」
「はぁ?」
「過料をいただくことになります。」
「はぁ?知らんがな、そんなん。どこに書いたあんねん?」
と言い返した瞬間、目の前の看板に目がとまる。
確かに書いております。大きな文字で喫煙禁止エリア、地図、違反者には過料2000円の文言。
だが、言い返してしまった以上、もはやあとには退けない。
「知らんがな、そんなもん。ここ、初めて来てんで。こんな小さい駅前で喫煙禁止なんか考えもせんかったわ。知らんかったもん、知らんわ。」
「そう言いましても規則ですから。」
「知るかいな、そんなもん。そんな条例あることなんか。そもそもお前ら誰やねん。」
「私たちは○○市の・・・」
「禁止かなんか知らんけどな、タバコ吸うてる間、誰一人通ってへん。誰にも迷惑かけてへん。払いません。」
おじさん3人組のリーダーっぽいおっさんは少しうろたえている。一番年配っぽい爺さんは「こんなこと言う奴初めてや」という感じでまじでイラついている。僕は続ける。
「禁止なんやったら、あんたら俺が火点ける前に止めに来いよ。吸い終わった瞬間に現れやがって。以後気をつける、ゆーとるやんけ。啓蒙活動やろ?それとも罰金目的かよ。納得いかん。誰にも迷惑かけてへん!」
「あんたな・・・」
「用のない街の条例なんか知りようないし、払う必要あらへんわ!」
僕の断言に若い方の男がひるんだ。
「ですからね、今後気をつけてください、って。初めての駅でも今喫煙禁止区域はたくさんありますから、よく見てね、あの、」
「そやな、気ィつけるわ。今度から気ィつけるし。」
そこへ、迎えの車がやってくる。僕はそそくさと乗り込んだ。
「え、なんかもめてました?」
「いや、別に。」

誤解を招くといけないのは、これは公権力から逃げ切った自慢話でも武勇伝でもなんでもない。
当然のことながら、法治国家に於いて、法令は遵守しないといけない。法で定められた喫煙禁止区域でタバコを吸ってはいけない。初めての街だろうが、誰にも迷惑かけていなかろうが、法律違反は取り締まられて然るべきだ。
ただ、取り締まりの男たちの態度がとてもかんにさわったのだ。権力をバックに、自分たちの小さな正義を振りかざす人たちが。昔高校時代に校則違反で先生に呼びつけられたこととか、バイト帰りに警察官に吸ってもいないタバコを疑われたこととか、そういうことがフラッシュバックしてきて、つい反発してしまったのだ。
それから、無職時代に放浪していたエジプトやトルコでの経験も反射的に浮かんだのかもしれない。ガチの勝負ではひるんだほうが負け、言い切ったもんの勝ち、奴らの理屈にまるめこまれたらとことんふんだくられる、、、そういう経験が、負けてたまるか、ひるまへんぞ、いちびったんねん、という感情を呼び起こしてしまったのだと思う。
あるいは清志郎やそういうロックンローラーたちから受け継いだ反逆精神。権力を笠に着た奴らからガツンと来られたらやられっぱなしじゃいられない、噛みついてやる、足掻いてやるって。いくつにもなっても、そういうしみついたものはこんなときに出てくるものなのだ。それでひどいめにあったとしても自業自得。
けれど、勝てないとしても戦わずに服従したくはない。

口論のあと、頭の中で流れていたのは、クラッシュの“I Fought The Law”だった。

灼熱の太陽の下、砕けた岩がゴロゴロ
俺は法と戦い、そして法が勝った
俺は法と戦い、そして法が勝ったんだ

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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