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◇春を恨んだりはしない

東日本大震災から6年。
何か書いておきたいと思いつつ、どこかなんともいえない気持ちがあって、なかなか文章がすすまなかった。何を書いても何か違うんじゃないか、あるいはこんなことを書いてどうする?という気分がしていたのです。
昨年の熊本もそうだし、他にもいろいろ大きな災害やテロが起きている中で、東日本大震災だけが特別心に引っかかるのはどうしてなのか、ということもなんともいえない気持ちのひとつでした。
自分が被災地に行ったから?被害が特段に大きかったから?でも、見たものしか思い入れが湧かない、というのは違うだろうと思うし、たった一人であれ10万人であれ思いもよらない災害で人の命が失われたことには変わりないし、突然の暴力による死という点では災害もテロも変わりはしない。何よりも、亡くなった当人や遺された人たちの悲しみにはどんな死であれ変わりがないはずで、衝撃の大きさや亡くなった人の桁の違いで思い入れが変わるのもどうなんだろうかと思ったり。
そんなもやもやを抱きつつ読み返していた池澤夏樹氏の「春を恨んだりはしない」。震災直後から半年ほどの中での思索が綴られた本だ。

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まえがきにこんな言葉があった。
「これまで死者に会わなかったわけではない。
六十年の人生でぼくは何人もの肉親や友人を失った。棺に納まった姿に別れを告げたことも十回を超えている。
しかし、それはどれも整えられた死者だった。親しいものが逝くという衝撃的な出来事を受け入れやすくすべく、社会は周到な準備をする。悲しみを容れるための器は事前に用意されていた。」
「今年三月十一日、たくさんの人が亡くなった。
逝った者にとっても残された者にも突然のことだった。彼らの誰一人として、その日の午後があんなことになるとは思っていなかった。」
また、こんな言葉も。
「今回、たくさんの人々が付き添いのないままに死んだ。地震と津波はその余裕を与えなかった。
彼らが唐突に逝ったとき、自分たちはその場にいられなかった。
その悔恨の思いを生き残ったみなが共有している。」

50才の誕生日の日に、自分のお葬式をイメージしてみた記事を書いた。自分のお葬式のことを考えると心が安らぐ気がすると書いた。それはなぜなのか、というと、自分を愛してくれた人たちに見送ってもらえる、というイメージがあったからだと思う。
そして、東日本大震災が今も他の災害よりも強く悲しみの感情を巻き起こさせるのは、見送られることなく失われた命、また愛する人を見送ることもできず、その最後の様子さえ想像するしかなく、しかも、その人が生きた証でさえ記憶以外何もかも失われてしまった人たちがたくさんおられるからなのか、その痛みがあまりにも痛切だからなのか、と思ったのです。
行方不明者は今もなお2500人以上。
その人を突然失ったことでこれからもずっと悲しみを抱えていかざるを得ない方々はその数倍。
正直、あれから6年も過ぎてしまって、その間で見つからなかった遺体や遺品なんて、今さら見つかるわけなんてそうそうないだろうと思う。また、そういうものが見つかったとしても失われた命が戻るわけでもない。合理的に考えれば無駄なことだし、人間以外の生き物がそういうことをするとも思えない。
でも、だからこそ、人間にとって、それはとても大切なことなんだな。
死を看取ること、見送られること。
混乱し打ちのめされた気持ちを癒やすためのよすがとしての儀式的な行為。
だって、人は一人では生きられない。
もし自分が誰からも看取られることもなく命を終えたとしたら。あるいは、愛する人が誰にも知られることなく命を終えたら。その人が生きた証すら手元に何にも残らないとしたら。考えただけで苦しくなる。絞めつけられるような思いがする。予期せずにえぐりとられた心の穴をどうして埋めればいいのか想像もつかない。人の行為が相手ならば告発したり反対運動をすることもできるが、自然現象相手ではそれすら叶わない。
どうかそんなことが起こりませんように。無責任に世界中に、とはきっと言えません。せめて自分の身には、というのが本当の気持ちです。

うまく言葉が見つからないまま思いつきで書きました。
失礼な言い方がありましたら申し訳ありません。
亡くなられた方の無念を、遺された方の悲しみを、悼む気持ちには変わりはありません。



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コメント

[C3011]

つき子さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
去年は一度も行けなかったのですが、今年はなんとか行きたいと思ってます。
  • 2017-03-20 08:17
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C3010]

このことを忘れないこと、覚えていること、できたら現地にいってみること…でしょうか。私にできること。あらためて、生きることに強い気持ちを持たせてくれます。
  • 2017-03-19 18:00
  • つき子
  • URL
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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