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音楽歳時記「小雪」

卵とベーコンがフライパンの中
それにくんくん鼻を鳴らす犬
教会の尖塔の鐘、ロープの脇の鳩
犬たちは一晩中ゴミ箱をひっくり返し
それにいつも工事中で悩ませられる
うちの近所でのことさ
近所での

金曜には葬式
土曜には花嫁
セイはレジの脇でピストルを持っていた
配送のトラックがやたらと騒がしい
俺たちのバターはもう届かない
うちの近所でのことさ
近所での

(In The Neighborhood / Tom Waits)

すっかり寒くなって冬の匂いがする晩秋の真夜中、トム・ウェイツを聴きながらとぼとぼと歩く帰り道。
しゃがれた声が心のひび割れにぐいぐい染み込んでヒリヒリする。

トム・ウェイツのことを初めて知ったのは、高校を出てすぐの頃だったと思う。アサイラムから出たばっかりのベスト盤のレコードを買った。
絞り出すようなしわがれ声、伸ばした顎鬚と不敵な目付き、そんないかがわしい雰囲気と裏腹のピュアな物語たちは、当時、大学に通いながら繁華街にあるうらぶれた喫茶店で独り暮らしをするためにバイトばっかりしていた僕の心に深く静かに染みこんでいった。毎晩、酔っぱらいたちに紛れて終電に乗り、駅から15分の道のりをとぼとぼ歩いて帰るときに、頭の中でトムのしわがれた声が鳴っていた。

あれからもう30年以上が過ぎて。
今も同じようにトムの声が響く帰り道。
特に、こんなくたびれた晩秋には。

2017102722040546a.jpg
Swordfishtrombones / Tom Waits

このアルバムは、そんなふうにトム・ウェイツに引きずり込まれた頃に最新アルバムだった83年の作品。
晩秋の感じ、というとこっちだな。
アコーディオンやラッパの入ったチンドン屋みたいな音に最初はものすごく違和感があって、よく分からないままほったらかしていたのだけれど、年を重ねるごとによさがわかるようになってきた一枚。
なんていうんだろうか、このアルバムは、架空の映画のサウンド・トラックみたいだ。
赤茶けた古新聞、奇声、犬の小便の臭い、食べ残しのカレーライス、脱ぎ捨てられたパーティードレス、禿げた革の手袋、カラス、リアカー、鉄屑、焼酎、剥がれ落ちた壁、剥き出しの配管、手巻きのオルゴール、退役軍人、厚化粧のピエロ、サーカス小屋、・・・
くぐもったオルガンやひび割れたトムの声の向こうにそんな情景とも言えないような鄙びてどこか歪んで狂気をはらんだ情景が何度となくフラッシュバックしてくる。
下品で雑多で猥褻、そんな音の連なりの中から、時折ぽっこりと美しいメロディーが浮かび上がってくる。まるでゴミ箱に咲いた白い花みたいに。その切なさに、ぎゅうっと胸が締め付けられる。
とっぷりと暮れてしまった秋の夜に酔っぱらって一人歩く道づれにはちょうどいい。
何とも言えない鈍い疲れと、どこか割り切ってしまったような爽快感と、忘れた頃にどこかに当たってはピリピリしてしまうすり傷のような痛みと、どこか発酵したような酸っぱい匂いが、古ぼけた映画みたいに頭の中を行ったり来たりする。

節季は小雪 。
陽射しは弱まり、冷え込みが厳しくなる。木々の葉は落ち、遠い山の頂きには雪が見られ、冬の到来が感じられる頃。
もう今年も一か月と少しだ。






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コメント

[C3126]

波野井さん、こんばんはー。
そうそう、ハードな音ばっかり聴いていた衣だったから、違う感じがすごくぐっときましたね。
冬の入り口にちょうどいい感じです。
  • 2017-12-03 18:38
  • golden blue
  • URL
  • 編集

[C3125]

自分もトム・ウェイツを初めて聴いたのは
高3とか浪人中とか(^^;)、
その辺りでした。

いつもHRばかり聴いていたら
ものすごく胸にしみました。

久しぶりに聴きたくなりました(^^)。
  • 2017-12-03 15:17
  • 波野井露楠
  • URL
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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