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♪VEE JAY STORY

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Big Boss Man -The Vee Jay Story- / Various Artists

チェスと並ぶシカゴの黒人音楽レーベル、ヴィー・ジェイ。
ゴリゴリにディープなチェスも素晴らしいですが、ヴィー・ジェイの音はもう少し洗練されていてゆるゆるなのが魅力。少し都会的っていうか、チェスよりもやさぐれていないっていうか、マディーやエルモアのゴリゴリのブルースではちょっとへヴィーすぎる、と感じるときにはヴィー・ジェイがよく効くのです。

大物ブルース・マンとしては、エルモア・ジェームズは“It's Hurts Me Too”、ブギーの王様ジョン・リー・フッカーも“Boom Boom”、“Dimples”などの名演をヴィー・ジェイにいくつか録音を残しているけれど、代表格はなんといってもジミー・リード。“Honest I Do”をはじめとするゆるゆるのブルースは、なんだかとてもほっとします。
そのジミーの相棒だったエディー・テイラーの“Ride 'Em On Down”。あるいはメンフィス・スリムなんかもゆるいブルースが得意だった。
ブルース以外では一等好きなのは、“Duke Of Earl”や“Man's Temptation”のジーン・チャンドラー、ジーン・チャンドラーにもたくさん曲提供しているカーティス・メイフィールドがいたジ・インプレッションズの“For Your Pressious Love”。そして当初インプレッションズのメイン・ヴォーカリストだったジェリー・バトラーの“He Will Break Your Heart”。或いは“Just a Little Bit”のロスコー・ゴードン、“Raindrops”のディー・クラーク、ストーンズもカヴァーした“You Can Make It If You Try”のジーン・アリソン、ドゥー・ワップなら“At My Front Door”のエルドラドスに、“For All We Know”のオリオールズ、“I Really Do“のファイヴ・エコーズ、“Good Night Sweetheart”のスパニエルズ。
いずれもどこかほっこりして温かみがある感じがするのですよね。

ヴィー・ジェイ・レコードを創設したのはヴィヴィアン・カーターとジェームス・ブラッケンというふたりの黒人の若者で、ふたりの頭文字からヴィー・ジェイとなったんだけど、ラジオのDJだったブラッケンは、ラジオでよくかけられる曲の多くは生出演の生演奏主体でレコードで買うことができなかったことが不満でレコーディングを始めたのだそうで、当初から「黒人による黒人のためのレーベル」を掲げていたそうです。アトランティックやチェスの、「売れるので結果的にブルースやR&Bの名レーベルになった」のとは成り立ちそのものが違う。そのインディペンドなスピリットがかっこいいですね。
設立当時の1953年ごろといえば、黒人たちの間ではまだ公民権運動など黒人であることの意識の向上は考えとして定着しておらず、都会で定職を得て少し裕福になった黒人たちはむしろ「黒人はダサい、白人に近づくことがかっこいい」という意識があったようです。そのことを反映してか、まだ当時の黒人音楽は、黒人としてのアイデンティティを歌うよりは、黒人の芸人性を押し出したエンターテインメント的なものや、より白人ポップス的に漂白されたようなものが主流だったのだけど、ヴィー・ジェイが録音したものの多くは、黒人としてのアイデンティティは保ちつつも都会的に洗練されたものが多く、田舎っぽいコテコテのブルースも受け入れられずかといって白人のコピーもなんだか、と思う中流意識の普通の黒人たちに広く受け入れられていったようで。
今、都会にいる黒人がリアルに求めていて、洗練されつちも黒さも残したポピュラーな音楽を提供していく・・・都会に住む黒人達の日常にリアルに必要とされるポピュラーなブラック・ミュージック・・・そんなカラーを持ったヴィー・ジェイの、良くも悪くも中庸だからこその魅力を持った音楽が広く受け入れられたことは、黒人であることの意識を普通に広く自然なかたちで浸透させていくという点で、実は、後の黒人解放運動の爆発の下準備というか大いなる無意識の背景になったのではないかと思ったりします。

まぁ、そういう蘊蓄話はともかくとしても、ヴィー・ジェイの録音には、どこか柔らかさや明るさが感じられるんですよね。ブルーな気分をポジティブな方向へ向けてくれるような静かな強さ、腕力ではない心の強さというか。
過激で極端な物言いがやたらと強気な姿勢を示すご時世だからこそ、こういう穏やかな強さが素敵だな、と思う今日この頃。
こういう音楽のように穏やかで、かつ強くありたいものだと思います。



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コメント

[C2974]

BACH BACHさん、こんばんは。
受け売りの知識ですが、、、ロックを聴いているうちに、実はビートルズもストーンズもブルースやR&Bそのまんまやん!ってなって、古い黒人音楽を聴いているうちに、その時代背景にも興味が湧いて、知れば知るほどおもしろくなってきて。
と、そんな感じです。この世界は深いですよー。
  • 2017-01-26 21:58
  • goldenblue
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  • 編集

[C2973] Vee Jay

ヴィー・ジェイというレーベルにそういう歴史があるというのは知りませんでした。というか、チェスの歴史の方も全然知りませんでした。勉強になりました!
  • 2017-01-26 11:51
  • BACH BACH
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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