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♪歩いて帰ろう / 斉藤和義

WONDERFUL FISH
WONDERFUL FISH / 斉藤和義


斉藤和義のことはあんまりよく知らないけれど、このアルバムは冬の佇まい、それも年末の喧騒によく似合う。寒々しい青・グレー基調にコートのポケットに手を突っ込む物憂げなジャケットや、「寒い冬だから」なんて曲名の印象以上に、「レノンの夢」や「引越し」、「ポストにマヨネーズ」なんかも僕の中では冬のイメージがする。
そんな一曲、「歩いて帰ろう」。
なんとも表現のしようのない、どうってことのない、けれど拭いきれようがない憂鬱が、モータウン風のリズムとポップなメロディーののせてちょっととぼけた感じで歌われる。それが逆にやりきれなさの深さを浮き彫りにしている。

斉藤和義の魅力は、その表現の揺らぎの広さだと思う。
日常の小さな感動をシンプルな言葉で切り取ってきた詩を、叙情的なメロディと深みのある声で歌ったかと思えば、轟音でギターかき鳴らして些細な不満を並べ立て吼えがなったりもする、その幅。ある曲ではとことんロマンティックで、ある曲では毒を吐き散らかす、その幅。
それは単に、いろんな音楽に造詣が深いとかいうこととは少し違って、“ロマンティックで叙情的な思いも厭世的でエゴイスティックな気分も、同じ人間の中で一様に湧き上がる感情であって、その揺れ動きをどちらも表現しないことには自分の中のバランス的に成り立たない”と言うような感じの幅の広さ。二重人格的な裏表ではなく、あくまで幅であり揺らぎ。言い換えれば、その「揺らぎ」の中にいる自分こそが本当の自分自身であるとでも言いたくなるような、そんな幅の広さ。そのことに少しの共感を覚えている。
「自分は○○」と言いきってなりきってしまえる人をある意味羨ましいとは思うけれど、それは安易でイージーで、本当は弱いから既成の何かにすがってしまうしかないのじゃないかとも思ったりする。自分自身の揺らぎに正直であるくらいの方が、実はしたたかでタフな生き方なんだろう、と僕はそう思うことにする。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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