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♪にんじん

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にんじん / 友部正人

ふーさん
ストライキ
乾杯
一本道
にんじん
トーキング自転車レースブルース
長崎慕情
西の空に陽が落ちて
夢のカリフォルニア
君が欲しい

何て言うんだろうか、この友部さんの声の持つ独特の感じは。
歌はけっして上手くはない。声質はひょろっとして軽く、声量だってないし、音程だって時々怪しいところがある。
でも、この人の歌には、この人が歌うからこその味わいがある。ひょろひょろしているのに芯があって、おどおどしているようでドスがきいている。
味わいなんて軽いものじゃないか、この人の歌にはこの人が歌うからこそ届いてくる感情がある。この人だけが持つ世界がある。宇宙がある。それは、日常に感じる具体性を持った悲しみや怒りや嘆きや淋しさとはまるで違って、もっと宙をつかむように抽象的な感覚なのだ。
そういうところが、同時代にたくさんいたディラン・チルドレンやフォークシンガーとはまるで違っていて、この人が例え具体的な事柄に対して怒りを歌っていても、具体的な怒りの告発の歌には聞こえない。淋しさを歌っていても、ただ“淋しいよー”と嘆くだけの歌にはならない。
そこにあるのは、強烈な「独り」の感覚とでもいうか。
それを“孤独感”と言ってしまうと違うような気がするんだな。社会からつまはじき、のけものにされたような孤独感とは明らかに違う。集団からはみだしてしまった疎外感ではなく、生まれたときから背負っているような「独り」であることの意識。独りであることが空気のように当たり前な感じ、っていうか。

「あんまり長くひとりぼっちでいて 唇もこんなに傾いてしまった」
「北風は狼のしっぽをはやしあぁそれそれって僕のあごをえぐる」
「あぁ中央線よ空を飛んで あの娘の胸に突き刺され」
「僕は夜のスカートに首を締められ 塩っ辛い涙流してる」
「人待ち顔の退屈な毎日だ のっぺらぼうの肉の腕だ」
「たわしの言葉をのどに押し込み ギターのしっぽに火をつける」

とても深いようでいて、ひょっとしたら深い意味などないのかもしれない抽象的な言葉が、友部正人の口から出ると、途端にものすごく深い陰影を持ち、聴き手のイマジネーションをかきたてる。そのイメージされる光景は時にはとてもグロテスクでさえあるのに、質感としては決して重々しくはない。絶望的に孤独感を感じる歌にさえ、どこかひょうひょうとした佇まいがある。
それは、友部正人の引き受ける“孤独”が相対的なものではなく、最初から当たり前の絶対的なものとしてあるからのような気がする。

このひょうひょうとした、淋しくはない孤独感や怒りを告発しない怒り、おどおどしながらドスがきいて懐の座った感じ。
残り30年を、こういうものを手にいれるために費やせたらいいのにな、とふと思った。
どっちにしても最後は、一人で向こう側へ渡っていかなきゃいけない。或いは大好きな人が一人で向こう側へ行くのを見送らなくっちゃいけないことだっておそらくある。
そのとき、友部正人のような一人でいることをひょうひょうと身にまとうようなやり方は、きっと役に立つんじゃないかって、ふと思ったんだ。



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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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