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♪GRACELAND

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Graceland / Paul Simon

Boy in the Bubble
Graceland
I Know What I Know
Gumboots
Diamonds on the Soles of Her Shoes
You Can Call Me Al
Under African Skies
Homeless
Crazy Love, Volume II
That Was Your Mother
All Around the World or the Myth of Fingerprints

文化というものは「純化」と「洗練」を繰り返していくものだ、というのは誰の言葉だったか。
純化と洗練。
例えば感動をどう伝えるのか、っていうと一番深く感動したことっていうのはもはや言葉にすらならなくって純粋にただ「おぉーっ」みたいな感嘆の言葉になるのだと思うのだけど、「おぉーっ」ではそれがどのようなことでどう感動したのかまるで伝わらない。そこで人は言葉を駆使してその感動を表現する。こういう表現はより技巧を凝らして、例えば詩や俳句みたいなものが生まれたりする。これが「洗練」。
洗練された表現というものはしかし一方では定型化類型化に陥りやすくなる。技巧のための技巧が重ねられた結果、最初の表現衝動に駆られるような感動が残らなくなったりする。これでは本来の感動が伝わらないと、構築された形式をあえてはずして原点に戻すような表現方法の揺り戻しが「純化」。

ロックという音楽も歴史をたどれば純化と洗練の繰り返しだったわけで。
そもそもの始まりをずっとたどればロックのルーツはブルースやジャズやカントリーに行き着くけれど、当時洗練され成熟しつつあったこれらのジャンルの音楽をぶっこんで原初的な衝動をビートのある音楽に乗せて「純化」させたのがロックンロール。ロックンロールは満たされないティーンエイジャーたちの爆発的な支持を得て一躍時代の音楽になったけれど、これは商売になると踏んだ白人ポップスシンガーにそのスタイルを取り込まれて初期のパワーを失ってしまう。これもひとつの洗練で、これを再び純化したのがビートルズやローリングストーンズらイギリスの若者たちだった。しかしこれもやがてサイケデリックやプログレ、ハードロックといった方向に分化する中で、それぞれの技巧が優先され、当初あった初期衝動は失われていった。これを再度純化したのがパンク。けど、それもやがて洗練された表現にすり替えられていく。
ジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンドリックスが今も輝きを失わないのは、洗練されすぎる前にその活動を終えてしまったからだろう。
ジョン・レノンは、ビートルズ時代に振りすぎた洗練への針を戻すためにソロになり、その後は一貫して自らの表現を純化することに力を注いでいた。
レッド・ツェッペリンやイーグルスは、洗練の果てに方向を見失って解散し、ソロになったロバート・プラントやグレン・フライは、自らの原点に回帰するようなソロ作品をリリースしている。
もちろん洗練が悪いわけではない。ブルースから出発したボズ・スキャッグスは洗練の果てに素晴らしい音楽を生み出したし、スティーリー・ダンやポリス、ロキシー・ミュージックら洗練の極みとも言える傑作を遺している。

そうした純化と洗練はある意味必要なもの。
さて、ここからが本題なんだけど(⬅前振り長っ!)、こういう相反するような純化と洗練を自らの表現の中で同時に包括できるアーティストはあまりたくさんはいなくって、その数少ないひとりがポール・サイモンだと思うのです。
自身が最初に表現したいと感じた衝動と、音楽的な洗練を同時に抱えながら表現できる数少ないアーティスト。もちろんポールも作品の中で時代によってブレもムラもあるけれど、この『Graceland』なんかはまさに純化と洗練が同居した素晴らしい作品ではないかと。
南アフリカの音楽に出会ったとき、ポール・サイモンはそこに、少年の頃に夢中になった50年代ロックンロールのエネルギーを感じたのだと思う。同時にポリリズムや複雑なコーラス・ワークによる研ぎ澄まされた音楽的洗練を見つけ、これをなんとか取り入れたいと考えたのだと思う。自分の歌をこういう音楽にのせることができたら、と。
そして、それが見事に成し遂げられたのがこのアルバムだ。
アルバムの中でまず際立つのは、“Graceland”や“I Know What I Know”、“Gumboots”、それに“That Was Your Mother”、“All Around The World or the Myth of Fingerprints”といったプリミティブで音楽そのものの楽しさに満ちたシンプルな楽曲たち。サイモンの歌も心なしか弾けている。
レディ・スミス・ブラック・マンバーゾのコーラスが気持ちいいのが“Diamonds On The Soles.of Her Shoes”や“Homeless”。
“Boy In The Bubble”は「奇妙で不思議な日々、だけど泣いちゃいけない」と、ポール・サイモンらしいペシミスティックな言葉が繰り返されるけれど、能天気なオルガンや踊り出したくなるようなベースのうねりがその言葉の根底にある力強さを湛えたニュアンスに響かせてくれる感じがするし、大ヒットした“You Can Call Me Al”にしろポップな“Crazy Love Vol.2”にしろ、いつものサイモン流メロディーでありつつ、うねるリズムが気持ちよくって。
ひとつひとつの音をいかに魅力的に響かせるのかという音楽的洗練と、自身の表現したい世界観をどれだけ生のまま閉じ込めておくことができるのかという、両立させるのがとても難しいテーマをつなぐ鍵が、アフリカのリズムとコーラスだったのだな。

文化だけではなく、仕事や、或いは人生全般の中でも純化の時期と洗練の時期がある。
純化にこだわりすぎて自滅しないように、洗練にこだわりすぎて袋小路に入り込まないように、そのバランスを上手にとっていけるための、プリミティブなエネルギーやリズムみたいなものって、何なんだろうな。


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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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