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◇楽しいナショナリズム

現職のアメリカ大統領が被爆地・広島訪問。
戦後71年も経ってこんなにも近い関係にあり表面上はすっかり和解している日本とアメリカなのに、それっぽっちのことが未だに実現していなかったんだ、ということにも軽い驚きだったけれど、実際そのことはかなりデリケートな問題で、敢えて訪問に踏み切ったオバマさんの決断はとても大きな事だったんだな、というのが、訪問が済んで改めてよくわかった、というのが正直な感想。
60年代後半生まれの僕たちにとって、アメリカはすでに普通にそこにあるものだった。
戦争をした相手、という認識はもちろんない。当然恨みもない。逆に豊かなアメリカ文化への憧れもすでにない。むしろアメリカ型文化の方が基礎としてあって、日本文化の方にエキゾチックさを感じるくらいだ。
とにかく、世界はアメリカという大国とソ連という大国が取り仕切っていて、日本はアメリカといっしょに自由主義社会を動かしている先進国メンバーの一員である、ということに何の疑問を抱くことなく育ってきたのだ。
アメリカという大国の存在が、その意向が、そのわがまま振り自国中心振りも含めてどれだけこの国の今に大きな影響を与えて続けてきたか、また今も与え続けているかは、大人になって、学校ではほとんど教わらなかった近現代史を自分なりに学んで初めて知ったことだ。だって、学校ではそういうふうには教わらないんだもの。

アメリカ国内では今でも「原爆投下は戦争を終結させるために必要だった」と考える人が多いのだという。加害者側というのはそういうものなのだろう。原爆がトドメをさしたことで、失われずにすんだアメリカ人兵士の命、というのは確かにあったのだろう。その一方でお隣の国からは「何を被害者ヅラしてやがるんだ。お前らがやったこと棚に上げて。」っていう声も聞こえてくる。「そもそも最初に攻撃してきたのはお前らだ。パールハーバーにも慰霊に来い。」っていう声もある。
国内では「おっしゃるとおりです。無謀な戦争をした日本がすべて悪いのです。だから私たちは戦争を放棄するのです。」という声がある。それを「自虐史観だ。」という意見があり、「あの時代は食うか食われるかの時代だった、どの国も自分たちの勢力を武力で確保するのは当然だった。」「あれは追い込まれてけしかけられた戦争だった。」「アジアを欧米列強から解放するための戦いだった。日本人が戦わなければアジアはすべて植民地にされていた。」という声もある。「そうでなかったとしたら、戦争で失われた御霊が浮かばれない。」と。
国によって、立場によって異なる意見。
他国からの非難が自国のナショナリズムに火をつける。
誰だって、生まれた国への愛情がある。憎しみしかないという人もいるだろうけど、それだって結局は愛情の裏返しなのであって、誰だって自分たちの国の目線からでしか主張することなどできない。
だから、それらの主張はすべて正しいのだろう。どちらかが絶対的な真実/正義で、どちらかが不実/悪である、ということではない、それぞれの立場の真実であり正義なのだと思う。
その事さえ押さえておけば、政治の場で交わされる言葉は全部駆け引きであり交渉ごとなんだということがわかる。言わせておけばいい。そしてこちらの言い分を普通に主張すればいい。あとは状況がすべてを決めていくのだろう。

そんなことを思いながら、島田雅彦さんのこの本を読んでいた。

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楽しいナショナリズム / 島田雅彦

秘密保護法の云々以来興味が湧いて、ナショナリズムに関する本をいくつか読んだけれど、中でもこの本はとてもわかりやすかった。
2003年に書かれた本だけど、その本質を突いた主張はむしろ今だからこそより実感として感じられるような気がする。
「サヨク」を自称する島田氏の理論はなによりも明快でおもしろい。
いくつか言葉を拾ってみる。

「どの国にも独自のナショナリズムがある。それはよそ者の目から見れば、特殊で、危険そうに見え、しかもアホ臭い。」

「どの国のナショナリズムもそれまで辿ってきた歴史と無縁には成立しない。だから、表層的なパターンは似ていても、歴史的背景の違いによって、ナショナリズムの深層は大いに異なる。」

「ナショナリズムの盛り上がりには目の前の具体的な敵が必要である。その敵は国民の危機感、被害妄想、怨嗟の的になるような敵でなければならない。」

なるほど、日本人がアメリカ・中国に対してはかなりむきになってしまうのも、韓国人がやたら日本に突っかかってくるのも、イスラム・ゲリラが西欧・アメリカを敵視するのも、結局はそういうことなのだな。
ナショナリズムを諸悪の根源のように捉えるのではなく、どうしたってあるものとした上で、どういうナショナリズムを構築するか、という視点がおもしろい。

今回の大統領の訪問に関しても、いろんな声が聞こえてくる。
謝罪はするなというアメリカ国内の声、謝罪を要求する声、具体的な削減案がなかったという声、核ミサイルのスイッチを持ち込んで慰霊も何もないだろうという声。
いろいろとるべき揚げ足はあるけれど、それでも僕はあの演説はいい演説だったと思う。
アメリカの大統領としての立場さえ取り払えば、核兵器が使用された結果としてのあまりにも非人間的な惨状を知る現代社会の一人の人として、人類が自分たちを滅ぼし兼ねない兵器を所有しているということに対しての異を問うすばらしいメッセージだった。
ナショナリズムはある。それは良かれ悪かれこれからもずっとある。
利害の一致しない複数の集団がある限り、争いはなくならないし、そういう意味ではきっと戦争は完全にはなくならない。けど、せめてあのような非人間的な兵器を使って争うようなことだけはまず避けるべきではないか、というのは非常に現実的な提案なのではないかと思うのだけれど。
ただ、オバマ氏がアメリカ大統領であることは動かぬ事実、そういうんやったらまず自分とこから減らさんかい、と思うのも当然なわけで、自分とこで競争するようにガンガン増やしてきた背景がありながら「なくしましょう」と平気でああいう二枚舌を使える西洋的倫理観はちょっとよくわからない、と思うこともある。
結局、今の世界秩序はアメリカが握っているし、日本の振る舞いはすべてアメリカの考えに左右されてしまうのは確かなのだ。
島田氏のアメリカ観はわかりやすく、執筆がイラク戦争中だったこともあってか非常に手厳しい。

「『普通の国家』になりたい悲願が、基地提供にとどまらない米軍への協力に結びつく。『普通の国家』のモデルは言うまでもなくアメリカである。だが、その思い込み自体大いなる誤解である。国連を無視し、自国のいや一部の権力者の利権だけで戦争を遂行し、第三世界を操るアメリカは『普通の国家』どころか『ならず者国家』に近い。」

ただ、後半でこのような意見が出てくるのがおもしろい。

「『普通の国家』になるくらいなら、アメリカとは似ても似つかない『腰抜けの国家』こそ日本なのだと胸を張るべきではないのか。」
「この国の保守派が目指す『普通の国家』のモデルは、普通でないアメリカなのだが、日本が目指すべきはむしろ、この『あいまいな日本』を世界モデルにすることではないか。」

今回大統領が広島訪問に踏み切れたのは、広島市民が「謝罪は求めない」ことが確約できていたからだという。自身が自国で政治的に不利にならない、という保障があるからこそ歴史的な訪問が実現できた。
ある立場の人からすれば、自国の非を認めるのであれば謝罪や補償を求めるべき、というのは当然で、それは論理的には正しいはずではあるけれど、しかし「謝罪を求めない」ことは国民の多くが受け入れることができた。そんなことよりも実際にこの地に立ってここで起きたことを想像してほしい、という思いがあった。
そういうことは自国の主張一辺倒のナショナリズムごりごりでは出てこない発想で、それほど核爆弾のもたらす惨禍は一国の利害を越えていると日本人が認識しているからこそ、そういう考えが広く受け入れられたのだと思う。もちろん、アメリカに追随してきた結果として今の豊かさがあるからこそそう言える側面はあるにせよ、自国の利益ごりごりではなく、全体と調和しながら少しずつ譲り合って全体で少しずつよくなっていけばいい、というような発想。つまりは「戦わない愛国心」。
そういう戦後の日本人の考え方というのは、もっと世界に胸を張って発信してもいいんじゃないのかな。
そんなのなめられていいように使われるだけで世界じゃ通用しない、って、マッチョな「戦う愛国心」派の人たちにボロクソに叩かれてしまうのだろうか。




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[C2845]

Bach Bachさん、こんにちは。
島田雅彦さんは著書では「妻にも子供にも不満はある。でも他人から非難されたら『愛する家族に何を!』っていう気持ちになる。」みたいなことを書いておられました。わかりやすい!

政治家やマスメディアの言うことを鵜呑みにしちゃダメですね。
自分で学んで自分で考えてみることを大切にしたいです。
  • 2016-06-03 10:49
  • goldenblue
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[C2844]

> 他国からの非難が自国のナショナリズムに火をつける

至言です。私は、ゲルナーという人の書いた『民族とナショナリズム』という本で、それを学びました。正しい認識って、誰かが教えてくれるものじゃなくって、自分で探して、自分で判断しないといけないんですよね。
  • 2016-06-02 10:58
  • BACH BACH
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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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