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♪ZOOEY

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ZOOEY / 佐野元春 & The Coyote Band 

世界は慈悲を待っている
虹をつかむ人
La Vita e Bella
愛のためにできたこと
ポーラスタア
君と往く道
ビートニクス
君と一緒でなけりゃ
詩人の恋
スーパー・ナチュラル・ウーマン
食事とベッド
Zooey

  あの日見た朝の景色を
  けして忘れはしないだろう
     (La Vita e Bella)

そんな風に思える朝の景色がいくつかある。
あのときの、とすぐに思い出せないとしても、だからといって忘れてしまったわけじゃない。

「ガラスのジェネレーション」で佐野さんがシャウトした"つまらない大人になりたくない!"という言葉は、僕にとっては大袈裟に言えば、神の啓示のようなものだった。
つまらない大人にならないためにとるべき方法は大きく3つある。ひとつはずっと子供のままでいること。もうひとつは、大人になることを拒否したまま若いうちに命を終えること。そしてもうひとつが、つまらなくない大人になること。
ずっと子供のままでいることは、よほど特別な環境を除いてはとても難しい。稼がなければ生活が成り立たない。若いうちに命を終えることはできないことではないし、実際ぶっとばすだけぶっとばしてあっという間に向こう側へ行ってしまった人たちもいたれど、それはこの歳になってもはや自分自身のロールモデルにはならない。となると、残されているのはつまらなくない大人になることしかないのだけれど、それはとても難しいことのようで。残念ながら、子供の頃に「かっこいい大人だ」と思っていた人たちが、歳をとるにつれてかつての自分を若気の至りだったと否定してしまったり過去の自分の表現方法を嗤ったり、ファン・コミュニティの中だけでしか通用しない一定のスタイルの使いまわしの縮小再生産に陥ってしまうのを見てきた。そんな中で、佐野元春という人は常に新しい表現スタイルを探りながら、"つまらなくない大人になること"を体現し続けてきた人だ。
『ZOOEY』に収められている12のうたにあるのは、「アンジェリーナ」で"今夜も愛を探して"と歌い、「サムデイ」で"信じる心いつまでも"と歌い、「ロックンロール・ナイト」で"今夜こそたどりつきたい"と歌った主人公たちのその後の物語、彼らが"つまらなくない大人"になるための悪戦苦闘してきた場所からのレポートなのだと思う。

  ほら、見上げてごらん
  冬の星空
  あれはポーラスタア
  二人の行方見守るように
  瞬きを繰り返している
     (ポーラスタア)

  Grace 欲望に忠実なこの世界のために
  Grace 静かにその窓を開け放たってくれ
     (世界は慈悲を待っている)

ラウドなギターが鳴り響く、シャープで、しかしとてもパワフルなサウンドのポップ・チューン。
リリックそのものはとても平易で、言葉だけを文字で見るとどこか少しうさんくさくもあるのだけれど、それがバンドのパワフルなサウンドに乗って聴こえてきたときには、明らかに明確な意思の力を感じ取ることができる。
キーワードは愛、誠実、そして意思。
最初に聴いたときの印象としては、そんなにピンと来なかったんだ。っていうか、このアルバムに漲るポジティブさやパワフルさに圧倒されてしまったという感じだったろうか。っていうか、そのポジティブさやパワフルさが眩ししぎて真っ正面から向き合うだけの心の余裕が自分になかったというべきか。
世の中はとてもやりきれなくてブルーなもので満ちている。誰もがそんなに愛で満たされてはいないし、誰もがいつも誠実ではいられないし、誰もがいつも自分の意志を貫けるほど強くはない。どうなんだろう?
でも。
やっぱり愛なんだな、ということがこの頃少しわかり始めてきた気がする。
愛すること。愛されること。愛を生み出すのは人生へのある種の誠実な向き合い方であり、愛すること、愛されることから生み出されるエネルギーこそが自分の意思を貫いていくための力になる。
嫌悪や憎しみという感情は瞬間的にはとても大きなエネルギーになるのだけれど、その大きなエネルギーは自らをも消耗させてしまうようなやっかいなものだ。嫌悪や憎しみに捕らわれてしまうとき、ほとんどの場合は結局のところは自分自身をも疲弊させてしまう。そういう負のサイクルではなくて。たとえほんの個人的な部分だけであったとしても愛を中心にしたプラスのサイクルに転換していくことから始めるべきではないか、世の中にいろいろある厄介ごとは結局のところそういった愛のサイクルからしか解決しないのではないか。"つまらなくない大人"になることというのは、つまりはそういう思いをきちんと肯定することができるかどうかから始まるんじゃないか。
そんな感じ。
難しいけどね。難しいことだろうか?素直に受け入れることができれば、実はそんなに難しいことではないのかもしれないな。

  朝は誰にでも訪れる
  愛して生きる歓びを
  きっともっと感じてもいいんだろう
  きっともっと信じてもいいんだろう

"La Vita e Bella"・・・イタリア語で"Life Is Beautiful"を意味するこの歌の中で、佐野さんは空へ舞い上がっていくような演奏にのせて、風を切るように颯爽と歌う。

  きみが愛しい
  理由はない
  言えることはたったひとつ
  これからもずっと

忘れてしまったわけじゃない、あの朝の景色を思い出してみればいい。



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[C2785]

つき子さん、こんにちはー。
なんとなく伝えられたのならうれしいです。愛・誠実・意志のサイクルの中にシアワセが湧いてくるような気がするんですよね。こういう気持ちになってきたのはこの数年のことです。
まだまだ空気は冷たいけど、3月っていうだけで気持ちが明るくなりますねー。
  • 2016-03-02 08:12
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C2784]

こんばんはー。 私も先日からよく聴いてます。音楽に詳しくないので、そんなにたくさんの言葉で語れないのだけれど、goldenblueさんの書かれているようなことを漠然と感じたので、記事を読ませてもらって、あー感じかたは合ってたのかなと。ハハ、そんなレベル。寒いけど春到来、3月に乾杯!おめでとう。
  • 2016-03-01 23:54
  • つき子
  • URL
  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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