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◇日本のロック名盤ベスト100

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日本のロック名盤ベスト100 / 川崎大助

「日本のロック名盤ベスト100」と題されたこの本。
こういう本には目がないので、ついつい見かけると買ってしまうのですが(笑)、正直ベスト100のラインナップ自体にはあまり共感できなかった。
ランキングに関しては、ロック追求度・オリジナリティ・革新性・大衆性・影響度の5つの視点から点数化した客観的なものだというが、その割には80年代にやや厳しく、90年代のいわゆる渋谷系やヒップホップ系が多いな、とかいろいろ文句はあるのだけれど、それはそれで渋谷系のアーティストと関わりが深かった著者ならではの視点ということにしておこう。
まぁそれはいい。
この本が非常におもしろかったのは、第二部の「日本のロック史検証」のところだ。これは単なるロック史としてではなく文化論として、社会論として秀逸だ、と。
著者によると、日本のロックは1970年、はっぴいえんどの登場からはじまる。
米英のロックは50年代の誕生直後からすでにリアルタイムで輸入され翻訳され、それは日本の歌謡曲や芸能界の隆盛の礎にはなったけれど、それはあくまで換骨奪胎されたもので、ロックという音楽の核心にある精神性や背景の文化についてまるで理解できないまま土着化させてしまった、というのが著者の論。ロックという音楽が米英で熱狂的に若者に支持されたことの背景にある精神性をまったく無視して、マンボやルンバといった当時流行した海外の新しいリズムの一種としてのみ取り込んでいった、ということだ。
そもそも当時音楽を演っていた人やプロモーターの人のほとんどは、一部のコアなプレイヤーを除いては決して音楽が好きだったわけではなくスターになりたい願望/スターを育てて儲けたい金勘定だけで動いていた、音楽はそのための道具、新しいものをどんどん取り入れては使い捨てる。つまりは歌謡曲、芸能界。60年代のビートルズやストーンズへの憧れもグループ・サウンズという形で芸能界発のムーブメントに終始し、商業ベースではない音楽のうねりはむしろ政治的主張とセットでフォークのシーンから生まれてきたのが特徴で、歌謡曲化されたGSへの反発から本当にオリジナリティを持った日本のロックが胎動しはじめ、そんな中で革命的に「8ビートと日本語を合致」させ、「日本語ロックの黄金律」を発明したのがはっぴいえんどというわけだ。
日本人が、そのスタイルや形式のバックボーンとなる哲学や文化的背景を理解できないまま結局形だけを取り込んで土着化させていった、というのは、明治維新の開国以降の西洋文化の取り込み方や、戦後の民主主義の取り込み方にも共通する部分があるようで、非常に興味深い。形を上手に取り入れて加工し、ガラパゴス的に独自の進化をすすめていく。それは世界の東の端っこにある島国という地理的条件がもたらした性質なんだろうけど。

はっぴいえんどがもたらした8ビートの日本語は、やがて彼らの音楽の奥にある、都市に暮らす憂鬱や虚無感は置き去りに耳当たりのよい部分だけを消化した音楽を生み出し、ニューミュージックという奇妙な名前で歌謡曲とは違うカテゴリーの音楽として結実していく。そのことへのカウンターとしてライヴ・ハウスから始まっていったパンク~ニューウェーヴの影響を受けたムーブメントも結局はバンド・ブームを経てJ-POPなるものに変質し、そのカウンターとしてのヒップホップも結局のところはまた魂と牙を抜かれてしまうわけで。
でも、それはやむをえないことなのかもしれない。
それは著者がいうように、ロックンロールとは元々資本主義社会が成熟していく中で、マジョリティにはなれないマイノリティでさえ購買力を持ったときに、マイノリティにむけての産業として、メインカルチャーに対するカウンターとして人工的に作り出された音楽だから。たくさんの人が共感したもの=売れるものは拡散し、初期のスピリットとエネルギーを失ってスタイルだけのコピーが溢れて、やがて廃れていくものなのだろう。
けど逆に言えば、資本主義の社会である限り、ロックンロールのスピリットを持った表現方法が無くなることはないのかもしれない。資本主義は格差を生み出すことで進歩してきた経済システムで、格差がある限り満たされない人間がロックンロール的な表現を必要とするからだ。


ちなみにベスト100のうち、ベスト20はこんな感じです。
1位:はっぴいえんど 「風街ろまん」
2位:RCサクセション「ラプソディー」
3位:ザ・ブルーハーツ「THE BLUEHEARTS」
4位:イエローマジックオーケストラ「SOLID STATE SURVIVER」
5位:矢沢永吉「ゴールドラッシュ」
6位:喜納昌吉&チャンプルーズ「喜納昌吉&チャンプルーズ」
7位:大滝詠一「ア・ロング・ヴァケイション」
8位:フィッシュマンズ「空中キャンプ」
9位:サディスティック・ミカ・バンド「黒船」
10位:コーネリアス「FANTASMA」
11位:フリッパーズ・ギター「ヘッド博士の世界搭」
12位:キャロル「燃えつきる キャロル・ラスト・ライヴ」
13位:山下達郎「SPACY」
14位:荒井由実「ひこうき雲」
15位:ジャックス「ジャックスの世界」
16位:X「BLUE BLOOD」
17位:佐野元春「SOMEDAY」
18位:アナーキー「アナーキー」
19位:プラスチックス「ウェルカム・プラスチックス」
20位:村八分「ライブ」
以下、ボアダムス、憂歌団、戸川純、スターリン、ルースターズ、ミュートビート、INU、小坂忠、フリクション、じゃがたら・・・と続きます。頭脳警察やチャー、ボウイやスライダーズはもうちょっと後ろで出てきます。

俺ならARBとモッズはやっぱり落とせないし、友部正人と泉谷しげる、シオンといった言葉とロックの関係を深めた人たち、ラフィンノーズや有頂天といったインディーズからの動き、或いはシャネルズやチェッカーズの芸能界とR&Bの関わりや、ロックを一気に大衆化させたバービーボーイズや爆風スランプも入れておきたいかな、好みだけではなくオリジナリティや革新性や大衆性、影響度という意味で。

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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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