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◇終わりと始まり

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終わりと始まり / 池澤夏樹

なんだかんだで年の暮れ。
いっつもドタバタと年末を迎えるのに、今年はなんだか不思議と余裕で、のんびりと本を読むゆとりがあったりする。

池澤夏樹さんの「終わりと始まり」と題されたこのコラム集は、月一回のペースで新聞に連載されているコラムの2009年4月から2013年3月までの4年分48本をまとめたもの。
エッセイではなくコラム。池澤さんによると、「もともとエッセーは試論という意味である。自分の心に近いテーマを取り上げて、それをもとにどんな思索が展開できるか試してみる。それに対して、コラムの基本はジャーナリズムである。その時々に社会で起こっていることを俎上に上げて論じる。」ということらしい。
順を追って読んでいくと、あぁ、そうか、この4年間というのはこの国の現在の状況につながる“揺れ”の時期だったのだな、ということがよくわかる。振り子が左右へ大きくぶれたあと、右へ大きく振り切った、その大きな“揺れ”が見えてくる。
2009年7月の民主党の政権奪取。何かが変わるんじゃないかという期待が満ちていた。事業仕分け、沖縄の「最低でも県外」とスローガンが掲げられた基地移転、市民運動出身の菅直人首相の「最小幸福社会の実現」という所信表明。
けれど、それはやがて失望に変わっていく。
なし崩し的にうやむやにされていく基地問題、まるですすまない財政改革、減速していく一方の景気(そもそも人口減少社会で過去のような好景気なんてありえないのだけれど)、そして最悪のタイミングで発生してしまった2011年3月11日・東日本大震災、福島原発事故。
それでもこの時期の池澤さんのコラムには、近い未来への希望が唱われていた。
この不幸にして大きな災厄は、この国が変わる大きなきっかけになるはずだ、と。政府や国家や独占企業がいかにあてにならないかを知った国民はより身近な問題について自分で考えることを始めるはずだ、と。これだけの大きな犠牲とコストを支払ったことで露呈された原子力発電の危うさは、代替エネルギーの開発への方向転換へつながっていくはずだ、と。
けれどそのこともやがて失望に変わっていく。
決断できない野田政権、そして2012年12月の総選挙、安倍政権の誕生。
そのような転換期の“揺れ”の先に振り切られた方向性の延長上に2015年という年があった。

このコラムが書かれた時代にダッチロールを繰り返しながら墜落しそうになったこの国は、機長を代えて態勢を立て直したけれど、機長は操縦桿を握っていることをいいことに強引に目的地を個人的な思いの強い場所へ、多くの乗客の意見を無視する形で連れていこうとしている。目的地はちゃんと示してありましたよ、それを承知で乗ったんでしょ、ってなもんだ。
2015年という年は、そういう事態が起きていることに多くの人々がが気づき始めた年でもあり、一方ですでにポイント・オブ・ノー・リターンを超えてしまった年となってしまったのでは、と思うのだ。
安全保障関連法案の成立は、とても悔しい出来事だった。
でも、それで終わりじゃない。むしろそこからがはじまりだった。
はずだった。
でも。
法案成立以上に目を疑ったのは、この12月初めの新聞記事だった。
内閣の支持率が上昇している、と。
10月の前回調査より支持率は4ポイント増の43%、不支持率は6ポイント減の37%で、7月から不支持が支持を上回っていたのが逆転したのだそうだ。
僕には意味がわからない。
だって、この2ヶ月近く政府は、国民から評価されるようなことなど何にもしていないからだ。
今年の夏にあれだけ政権への批判を強めていた人たちはどうしてしまったんだ?もうあきらめちゃったのか?消費税が食品に限って軽減されるって?あれは軽減なんかじゃない、10%への増税と、一部“据え置き”じゃないか。言葉の響きに騙されんなよ。財源問題をないがしろにした来年の選挙をにらんだポピュリズムじゃないか。
この夏の、あれは、ただのお祭り騒ぎだったのか?ただの“気分”だったのか?喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうのか?そんなにも簡単に?もう飽きちゃった、ってそういう問題じゃないはずだろう?
そんな思いが拭えない。
あれはただの“気分”だったのか?

なんとなく暗澹とした気持ちになってしまう。
いろいろなことがあったのにそのことがまるで教訓にならないまま、力を持っている側が強引に思い通りのことを強行しようとしている。異論を無視する、都合の悪い情報は後ろ側へやって、異論を排除しようとさえする。そのことへの違和感にすらなんだかすっかり慣れてしまった。
池澤さんの言葉から引用してみるとこういうことなのか。
「今、気になっているのは、みんなが『考える』より『思う』でことを決めるようになったことだ。5分間の論理的な思考より1秒の好悪の判断。」
「SNSが一人一人が発言することを容易にした、ということもあるかもしれない。それは『思い』であって『考え』ではないことの方が多い。システムはそれを束ねて増殖させる。『思い』に自信がつき『考え』を排除する。時には多くの人が手近に敵を見つけて叩くというゲームに熱中する。そしてすべてが軽くなる。」
     (『思い』と『考え』の間で)

考える。
大切なことだ。
でも、無理かもしれないな。だってそんな思考を善しとするような教育を僕たちは受けてきていないからだ。
けど、もしも2016年、衆参同時選挙があって、そこで安倍体制が圧勝したら。
それこそノー・フューチャーだぜ。そうは思いませんか。もしそう思うのなら。
なんて体制批判的なことを自由に書けるのも、もはや今しかないのかもしれないですよ?



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コメント

[C2725]

nyarome007さん、こんばんは。ご無沙汰してます。
この秋以降の展開、いやーな感じですよね。
法案成立後もていねいに理解をすすめていくと言っていた政権は、その後この件についてはまるでなかったことのように一億総活躍だの軽減税率だの聞こえのいい言葉を並べて、裏では着々と準備をすすめてる。アベノミクスだって結局は株価と円の小手先の下支えであっていずれ必ず破綻する。憲法改正まで持ち込むまではなんとか景気がいいことにしておきたい魂胆が丸見えだし、原発だって基地だって政治改革だって結局は問題先送り。
でもね、その不満を吸収できる政党が見当たらないのも事実。ダメだこりゃ、って感じしますよね(苦笑)。
この本に書かれた2009年から2013年という時期を振り返ってみて改めて、あの政権交代というには千載一隅のチャンスであり、たった一回のラストチャンスだったのかも、なんて思ってしまいます。

考える、難しいですよね。
考えているうちに袋小路にぶちあたってしまって、そのうちだんだんどーでもいーかもって気分になりそうにもなります。
あきらめたらおしまいで、少なくとも声をあげ続けることが最悪の最悪の事態への歯止めになると思っているのですが、いつか言えない空気が蔓延するのではないか、ということを一番怖れています。会社がすでに、お上に反することを言えない空気になりつつあるので、プロセスはわかります。やつらは、思ったことを何でも言ってごらん、論議することは大切ですよ、と正論で引きずりこんだあと、その声をあげた人間を見せしめに思いっきり叩いて他の人たちを黙らせます。
政権がしらじらしく正論をぶるのが、これに似ていてとても怖い。

  • 2015-12-22 23:17
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C2724]

お、同じことを考えてるな、と苦笑い。
次の選挙、このままだと、安倍体制の圧勝になるでしょう。
小粒でもピリッと気の利いた新政党が、あの夏、国会を取り巻いた市民や文化人、学者を核として新しく生まれれば、また大きく状況は変わるのでしょうが・・・。
既存政党の離合集散や「よりましな方」を選択する落選運動に留まっているようでは、シラケるばかりで、ねぇ。

golden blueさんが書かれているとおり、ツイッターをはじめとするSNSの功罪は今一度考えるべきだと思います。
個人的には、短いフレーズで、人々の情緒(すなわち、「思う」の側)に訴えかける手法には、危うさばかり感じ、じっくり考えながら、読み、書くということを大切にしていきたいと思うのです。
これがまた、なかなか面倒なのですけどね。(だから、全く書けていないし・・)
  • 2015-12-22 00:39
  • nyarome007
  • URL
  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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