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♪永遠の遠国の歌

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永遠の遠国の歌 / あがた森魚

いとしの第六惑星
誰も僕の絵を描けないだろう
春の嵐の夜の手品師
水晶になりたい
象ねずみの校庭
スターカッスル星の夜の爆発
淋しいエスキモーの様に
永遠の遠国のうた
ガリガリ版 永遠の遠国のうた

今朝どんな夢を見たか、説明できますか?
そう問われたら、きっとできそうな気がして「できる」と答えてしまうと思う。
でも、いざ説明しようとするとまるでできなくって。
舞台も場面もどんどん脈絡なく転換していくし、登場人物だってよく見知った人が普段とはまるで違うキャラで登場したり、かと思えばほとんど面識がない人がいきなり親友みたいに現れたり、小学校の同級生と職場の同僚が友達同士だったり。ストーリーだって支離滅裂。よく考えてみると前後関係はまるでつながらなかったり。
でも夢の中ではそのことにまるで違和感を感じないんですよね。
不思議と、嬉しさとか悔しさとか、あと冷たさとか痛みとか、夢の中で経験したことの感触ははっきりと残っている。感情もまだはっきりと残っている。
にもかかわらず、言葉にしようとしてもまるでできなくなってしまう。
そもそも三次元の立体を二次元で再現しようとしてもどうしても無理が出てしまうように、夢の世界は三次元では組み立てることのできない異空間なのかもしれない。

あがた森魚さんのこのレコードも、そんな異次元の夢みたいな作品だと思う。
ふわふわとたゆたうような音の中にひとつの別世界が構築されていて。
眠りが浅いときのなんとも言えない夢の中みたいに、非現実的で脈絡なく転換しながら続いていく歌の景色がとても幻想的で、それでもその感情だけはくっきりと影のように残っていて。

青い海の底のように、ゆらゆらと揺らぎあぶくがぷかぷかと浮き上がるような幻想的なイントロからゆっくりと鳴らされるアコースティック・ギターとピアノでゆらゆらと始まる「いとしの第六惑星」。影絵の紙芝居のナレーターみたいにゆっくりと少し奇妙な声で歌い始めるあがたさんにコーラス、アコーディオン、パーカッション、いろんな楽器が合流しながらすすんでゆく幻燈会のよう。意識は知らず知らずのうちに体からふわりふわりと離脱して、宙に浮かんでいるような気分になってくる。
友部正人さん作の「誰も僕の絵を描けないだろう」は“うんとうんと重たい靴を履くんだ 歩いているのが僕にもよくわかるように”なんてフレーズが刺さるヒリヒリするような歌。逃げ出せないような切迫感、すすり泣くような歌い方。嗚咽。すごく痛い、絶望的な歌。なのに、どこか一条の救いがある。
「春の嵐の夜の手品師」はシャンソンのようなトーチ・ソング。リコーダーが切なくも幻想的で、儚くも美しい世界に引き込まれてしまう。
ふわふわと浮遊感のある「水晶になりたい」も泣きだしそうに切ない。
舞台は一転、放課後の小学校。“お、お、お、お、お、踊ろう 踊り場で”なんて小学生みたいに合唱したくなる「象ねずみの校庭」、さらに一転、舞台は夜空へ飛んで「スターカッスル星の夜の爆発 」、実はフィル・スペクター好きだというのがかいま見えるリズムで“淋しいエスキモーのように泣かないでください”なんて歌われるへんてこりんな「淋しいエスキモーの様に」・・・などなど、まさに夢の中の支離滅裂な物語みたいにあっちへいったりこっちへいったり。なのに、でもなぜかどこかすべての物語がつながってるような感覚もする。
そんな余韻を残したまま、「いとしの第六惑星」と同じメロディー、フレーズがちりばめられた「永遠の遠国の歌」へ。
そして、はたと気がつくと、夢の中から現実へ。

夢から目覚めたときの、一瞬自分が誰だかさっぱりわからなくなるような違和感。とても大切な経験をしたかのような感触だけが手元に残りつつ、触れようとすると気化してしまうような感覚。じっとり寝汗をかいたような、なんとも気だるい脱力感。
さわやかさなんてかけらもない、どろっと情念をさらけだしたような曲が多いにもかかわらず、聴き終えた印象はなぜかすごくさわやかさすら感じるのです。まるで夢の中でたくさん泣いたあとみたいに。

あがた森魚という人の世界観のことは正直よくはわからない。ちょっと一般人を寄せ付けないようなマニアックなイメージもあって他の作品のこともあんまりよくは知らない。
けど、歌に物語を語らせてその世界に引き込んでしまう表現力、歌に込めた魂の手応えは確かだ。
歌というものの役割のひとつに現実世界からの逃避というものがあるとすれば、このレコードはまさにそれかもしれない。
スタート・ボタンを押してからの40数分間、現実を離れた別世界へいざなってくれる音楽です。




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コメント

[C2852]

旧一呉太良さん、こんばんは。
最近の眠りが浅いのか、変な夢を見ることが多くて。運動不足かな(笑)。

あがた森魚さん、ちょっとマニアックなところがあってがっつりのめり込みにくい感じではあるのですが、すごいシンガー/表現者であることは間違いありません。
「誰も僕の絵を描けないだろう」も、友部正人原曲よりも壮絶な(悪くいえば芝居がかった)バージョンに仕上がってて、何回聴いても刺さります。
  • 2016-06-15 22:22
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C2851]

golden blue様

こんにちは

>登場人物だってよく見知った人が普段とはまるで違うキャラで登場したり、かと思えばほとんど面識がない人がいきなり親友みたいに現れたり、

これはその通りですね。僕もさっきまでそんな夢を見たような気がするのですが忘れてしまいました。
友部正人のこの曲はとても好きなので
カバーしているのであれば是非聴いてみたい。

おっしゃる通り、あがた森魚の音楽は
物語を語らせてその世界に引き込んでしまう表現力
が凄いですよね。

今度買ってみます。

  • 2016-06-15 09:42
  • 旧一呉太良
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  • 編集

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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