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♪寒水魚

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寒水魚 / 中島みゆき

悪女
傾斜
鳥になって
捨てるほどの愛でいいから
B.G.M.
家出
時刻表
砂の船
歌姫

「おい、聴いたか、中島みゆきのニューアルバム。これ、すごいで、名作やで。」
「いや、まだ。もう出てたんや。」
「今日、うちに来いよ。これはほんま名作やでぇ。」

中学時代の友人のOという男が中島みゆきの大ファンだった。
そいつが興奮して叫んでいたのがこの「寒水魚」という中島みゆき9作めのアルバム、1982年3月21日の発表。あ、そんなにあとの発売だったんだ、という印象がする。82年の3月といえば中学卒業後高校入学前だから、その春休み中だったのかもしれないな。
今では想像しにくいことなのだけれど、当時中島みゆきは時代のトップ・スターだった。しかも10代からも圧倒的な支持があった。深夜ラジオの影響も大きかったのだろうけど、中学生もみんな中島みゆきを聴いていたのだ。前年リリースの「臨月」というアルバムもみんな聴いていたし、このアルバムのリリース前にはシングル「悪女」が大ヒットしていた。♪歳をとるのはステキなことです、そうじゃないですか~、なんていう老婆が主人公の歌なんかが入ったレコードが中学生にどう響いていたのか我がごとながら今ひとつピンと来ないのだけれど(笑)。

自分にとってこのアルバムが今も強く記憶に残っているのは、最初に聴いたときの衝撃が大きかったからだ。というのは、1曲めに収録されたアルバム・バージョンの「悪女」のこと。
ジャージャン、ジャジャジャー、キュキュー(←ハイポジションでのギターのオブリ)♪
ベースのぶっとい音から入るイントロに続いてチャーーー、チャチャラチャラチャラーーとツインリードのギター・ソロが入ってきて、ざらついた声でぶっきらぼうに♪まーりこのへぇやへぇえぇぇー、とみゆきさんが歌い出す。それは、ラジオで聴きなじんだシングルの「悪女」とはまるで別モノの曲だった。
「ゲッ、なんかこれ、すげえ・・・」
「な、な、すごいやろ。」
「全然別の曲みたいやな。」
「な、な。ほんますごいやろ。」

とりあえずカセットテープに録音させてもらってOの家をあとにした。頭の中ではまだ強烈に、あのジャージャン、ジャジャジャー、っていうベースのうねりが鳴り響いていた。

それまでもたくさん音楽は聴いていたといえば聴いていた。アリスやさだまさし、オフコースや甲斐バンド、柳ジョージとレイニーウッド。でもたぶんその頃までは、歌詞とメロディーくらいしか聞こえてなかったのだろうな、今思えば。楽器の演奏の音はきっとそんなに聞こえていなかった。だから、アレンジひとつで、演奏方法ひとつ歌い方ひとつで、同じ曲ががらっと雰囲気を、歌われている風景や世界観そのものがこんなにも別モノになってしまうんだということに目からウロコだったのだ。

今改めて聴くと演奏やアレンジは実はそんなに大したことでもなくって、歌われている世界がやっぱりすごいな 、と思うからおかしなものだけど。
当時は耳障りがよくわかりやすい「鳥になって」や「捨てるほどの愛でいいから」なんかが一番お気に入りだったのだと思うのだけれど、今聴いてぐっとくるのは「B.G.M. 」や「家出」、そして「傾斜」といった物語性の深い曲。それから「時刻表」。

この頃の中島みゆきさんは、失恋の歌だけではなく生きていくうえで深く傷ついてしまった心の風景を描き出すのがとても巧い。
歌の入口ではある情景を淡々と描きだし聴き手の想像力を膨らませ、サビ近くで一転どろっとこぼれ落ちるように心情を吐露する。そのことで、描き出した情景の意味がガツンと聴き手に迫ってくる。
歌われている中身そのものはとても救いようがないような孤独の風景であるにもかかわらず、そのことが情景として描き出されることで、どこか救われたような気分が聴き手の中に残る、そんな歌。
もちろんそんなことは中学生だった頃にはちんぷんかんぷんだったのだけれど。



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コメント

[C2743]

アズさん、こんにちは。
「歌姫」、名曲ですね。♪スカートの裾を潮風に投げて~。
中学生当時よりも今のほうがぐっとしみます。。。
  • 2016-01-18 08:19
  • goldenblue
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[C2742]

名盤さん、こんにちは。
この「悪女」はほんと衝撃的でした。みゆきさん、このあたりから失恋ソング、フォークというイメージからどんどん変わっていったように思います。
  • 2016-01-18 08:16
  • goldenblue
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[C2741]

golden blueさんどうもです。自分も同じくカセットテープで愛聴しておりました。「歌姫」がお気に入りですね。中学生当時といえば学習塾なんかに通ってましたョ。住宅の一室に長机、貧乏臭かったけど良い思い出であります。
  • 2016-01-17 20:00
  • アズ
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[C2740]

「悪女」のアルバム・バージョン、僕も当時衝撃的でした&好きでした。
この頃の中島みゆき特に好きです。

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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