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♪瓦礫ではなく

そこに展示されていたのは、壊れたピンクのデジタルカメラでした。
カメラの横にはハガキくらいの大きさの紙があり、メッセージが書かれている。
「娘といっしょに高台まで逃げたんだ。そしたら娘が写真撮ってくるって。写真なんか撮らなくったってよかったんだ、こんなことになるなんて。」
泣きました。

その展示物があったのは、陸前高田の隣、宮城県気仙沼市にあるリアス・アーク美術館というところ。昨年から「東日本大震災の記録と津波の災害史」という常設展が開かれています。
初日の朝、予定していた作業が雨でできず予定を変更して寄ったのですが、はからずも改めてこの地で起きたことの重さと悲しみを受け止めることになりました。
ここの展示の大きな特徴は、コメントが一人称で書かれていること。壁に並んだ写真には撮影者のそのときの心境が、展示されたモノにはそれにまつわる思いが、そのままの言葉で。

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(リアス・アーク美術館パンフレットより)

展示されたモノは被災物と呼ばれていました。瓦礫ではなく、被災物。
たくさんのモノはそれぞれにそこに暮らしていた人にとってのたいせつな財産だったり思い出の品だったりするのですよね。そしてそれらのモノが、ここにありふれた普通の暮らしがあったことと、それが無残に壊されてしまったことを物語っていました。

お会いする方々はみんな明るい笑顔でまるでなんにもなかったように、まるで親戚のおじさんおばさんみたいに出迎えてくれるけど、みなさん多かれ少なかれこんな心の傷を持っている。それはいくら時間が経っても癒されようなどないような気がするんです。自分だったらそうですもの。
外から来る僕らは、そういうことを忘れてはいけないな、と思います。
そして、また次にどこかで必ず起きる災害のとき、そんな悔しく悲しい思いを繰り返してほしくないという被災されたみなさんの気持ちを思い起こして行動したいと思います。

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Gospel Roots / Aaron Neville

一応、音楽の紹介も。
このアルバムは、アーロン・ネヴィルの歌うゴスペルっぽい曲を集めたもの。
"O Happy Day"や"Amazing Grace"といった古いゴスペル曲のほか、"Let It Be"、"I Shall Be Released"、"Bridge Over Trouebed Water"なんて曲も演っているのだけれど、アーロンの声は実にしみるのです。
2005年、故郷ニューオリンズをハリケーン・カトリーナが襲い街に壊滅的な被害をもたらした。アーロン自身も自宅全壊の被害を受けているわけで、アーロンの歌うゴスペルは、鎮魂の祈りとして、そして希望の灯りとして、心の奥にすぅっと入り込んでくるような気がするのです。
しみる。そして、力が湧いてくる。
素晴らしい音楽だと思う。或いは、音楽はやはり素晴らしい、と。

うちにあるたくさんのCDなんかも、一枚一枚にいろんな思いがあるもの。一枚一枚をのぞいていくたびに、そのときそれぞれの、或いはいろんな気分の自分がそこに現れているような気がするものです。
もしこれが全部流されちゃったら、自分のたどってきた道を失ってしまったような気持ちになるかもしれませんね。


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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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