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◇言葉を疑い、言葉で戦う

golden(以下g):「争いごとと言葉の関係について考えてみたい。」
blue(以下、b):「いきなりなんじゃそら?」
g:「人は誰でも、自分自身の考えを主張したいとき、自分にとって有利となるように言葉を選ぶ、ということ。」
b:「そりゃ当然のことでしょ。」
g:「だけど、見落としがちで、重要なことなんだよ。」
b:「例えばどういうことよ?」
g:「夕食の洗い物を夫婦で分担することになるとする。妻はこれを夫の『義務』だと主張する。夫は『家事の手伝い』だと主張する。」
b:「奥さんは、義務なんだからやって当然って思うわな。私は義務としてずっとやってきたんだから!って。」
g:「夫は?」
b:「お手伝いなんだから多少は許してほしい、俺は働いているんだぜ。お手伝いなんだからやったら誉めてくれてもいいじゃないか、みたいな?」
g:「争いごとを解決するためには、まずは双方がどういう立場で主張しているのかを理解することが必要、っていうこと。相手の主張の背景には相手なりの思想があり、相手の立場によって名づけ方が変わってしまうわけですよ。」
b:「そーゆーことね。それぞれの立場によって呼び方が違ってくる、と。」
g:「安保関連法案の反対運動について、ひとつだけ違和感を感じていることがあってね、それは『戦争法案』という名づけ方のこと。」
b:「ほう。」
g:「政府も戦争は否定している。戦争をしてはならない、この国の平和を守りたい、だからこの法案が必要なんだ、という論調。
言葉だけをとれば、双方の主張は一致しているわけだ。」
b:「みんな誰もが戦争には反対している、と。」
g:「それに対して『戦争反対』を訴えても、『そうだよ、戦争には反対だって言ってるじゃん。』ってことにしかならないのではないか。『戦争法案反対』といっても『戦争法案なんて作ってないよー。』なんてかみあわない論議になるだけではないのか、そんな気がしてしまうのですよ。」
b:「でもやっぱり、今回の安保関連法案は中身として『戦争法案』だと思うけどな。」
g:「政府の言い分に言葉のまやかしがあるんだよ。例えば『後方支援』という言葉。総理大臣は、後方支援は安全な場所で行われる、リスクは高まらないと言う。しかし、だ。本当にそう言い切れるとしたら、それは何であれ仕事の現場を知らなすぎるか、知っていて誤魔化しているかのどちらかでしかないよな。」
b:「どんな活動にせよ、『後方支援』というものは非常に重要で、後方のない前方はありえないからね。」
g:「配送の業務に例えれば、トラックを運転して荷物をお届けする人が『前方』で、実際に交通事故のリスクがあったり利用者に苦情を言われたり痛い思いをするのは圧倒的に『前方』なのだけれど、その『前方』がきちんと業務の役割をこなすためには、間違いのない仕訳や伝票の管理が必要になる。そういうシステムを動かす人たちや物流センターの人たちを「後方」としよう。『後方』には直接消費者の苦情は飛んでは来ない、けれど、『後方』の業務なしには『前方』が良い仕事をすることは決してできないわけですよ。」
b:「人が働くためには資材や道具、食料や休息できる環境が必要やからね。」
g:「このような『労働と材料を供給に必要なだけ提供することに関する作業を扱うこと』をLogisticsというのだけど、Logisticsとは軍事用語では兵站のこと指すんですよね。
兵站(へいたん 英語: Military Logistics)とは、『戦闘地帯から後方の、軍の諸活動・機関・諸施設を総称したもの』(Webilio辞書)、そもそも戦争においては戦闘行為と不可分なものだというわけよ。」
b:「腹が減っては戦はできぬ、っていうしねー。」
g:「戦士の腹を満たすための米の確保と炊き出しは戦国時代のもっと前から重要な任務だったし、第二次世界大戦での日本の戦死者の60%の140万人は実は餓死だったという事実は兵站がいかに戦闘にとって重要かを示していると思うんですよ。
また配送センターの例えに戻してみるけど、もしこの会社に恨みがあるとして、業務の邪魔を企むとき、どうすれば効果的に相手に打撃を加えることができるだろうか。一台一台の配送員を狙っていても効果が低く効率が悪い。その拠点である物流センターを狙った方が明らかに効率的だろ。」
b:「あんまりいい例えじゃないけど、首相並みに(笑)、まぁ誰だって考えつくことやわな。」
g:「兵站とは戦争と不可分のもの、つまり、後方支援=兵站=戦争、であり、同盟国のためにそのことを行うのは明らかに同盟国の戦争に参加することになる。」
b:「そのことがわかっていてあえて政権は『後方支援』という言葉を使っているんやな。むかつくねぇ。」
g:「人は誰でも、自分自身の考えを主張したいとき、自分にとって有利となるように言葉を選ぶ。」
b:「こういう時にはどうやって客観的に判断すればえんやろね。」
g:「うーん、それは、相手側がどうとらえたか、でしょ、結局のところは。また変な例えで申し訳ないけれど、いじめの事件でよくいじめていた側から『からかっていただけ、いじめていたつもりはない。』なんて言葉が出ることがあるよね。」
b:「パワハラやセクハラだってそうやな。『指導の一環だった。』『コミュニケーションのつもりだった。』なんてね。」
g:「でも、やった側がどういうつもりであれ、受け取った側がどうとらえたか、でしょ。裁判なんかでもテーマになるのは。」
b:「いじめられた側が、いじめだといえばそれはいじめだし、ハラスメントを受けた側が、立場を利用したいやがらせだ、と主張すればハラスメントやもんね。」
g:「では、いくら政府が『後方支援だ』と主張したところでどうだろう。」
b:「戦っている相手が兵站だとみなした時点でそれは後方支援ではなくなってしまうわねー。」
g:「自国でどう主張したところで、国際的に認められる話ではない、ということ。」
b:「まやかしだ。」
g:「だいたいこの政権にはこういった言葉のまやかしが多すぎる。」
b:「ウソ、ごまかし、すりかえ。」
g:「かなり巧妙に考えてやってるよね。」
b:「もっと口滑らせてボロを出す人が多かったからね(笑)。」
g:「こういうまやかしは昔からあるんだけど。侵略を大東亜共栄圏の創出だとか、敗走を転進だとか。」
b:「よく中国の海洋進出がとか北朝鮮の脅威がとか言うけどさ、万が一攻撃があったとしてもそれは憲法解釈を変えなくても個別的自衛権で対応できるのではないの?そこの論理の飛躍が、理解できへんのやわ。」
g:「国民に丁寧に説明を、って言うわりには国民の不安には応えない、国民がなぜ不安を感じているのかを考えようとはしない、時間切れになるまで粘ろうとしてる、ように見えるよね。誠実ではないよな、と。」
b:「さっきの話じゃないけど、ああいう都合のいいまやかしがね、戦時中のことを彷彿とさせてより不安に思ってしまう大きな要素やのになぁ。」
g:「こういう不誠実な人たちが、本当に有事が起きたとき、国民の側に立った判断ができるとは到底思えないんですよねぇ。」


そんなことを考えていたときに、たまたま図書館で出会ったのがこの本。

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泥沼はどこだ―言葉を疑い、言葉でたたかう / 小森 陽一、アーサー・ ビナード

g:「この本、文芸評論家の小森先生と、詩人のアーサー・ビナードの対談なんだけど、初めて知る驚くような話がいろいろあったんだよ。例えば、アメリカは第二次世界大戦後、実は『戦争』はしていないんだ、ということ。」
b:「えっ?朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争・・・いろいろやってるやん?」
g:「アメリカの憲法には、戦争をするときは宣戦布告をしなけらばならないと書いてあるらしいよ。」
b:「ほう。」
g:「アメリカが最後に行った宣戦布告は1941年。」
b:「へ?」
g:「朝鮮戦争の際は、国連の安全保障理事会の制裁決議に基づく軍事行動だから"Police Action"=警察行動だと主張したらしい。」
b:「アフガニスタンの時もそう言ってたっけ。」
g:「湾岸戦争も、国連決議による多国籍軍の武力による制裁行動、ということになっていてオフィシャルには戦争ではないんだよな。」
b:「Gulf Warって言っちゃってるけど。」
g:「ベトナム戦争も実は宣戦布告はしていないんだって。当時の南ベトナムとの二国間軍事同盟に基づく北ベトナムに対する集団的自衛権の行使、なんだそうです。」
b:「ゆうたもんがちやな。」
g:「憲法の骨抜き、ってのはとっくの昔にアメリカでは起きてた、と。」
b:「改憲にこだわっても無理やからこーゆーやり方でやったらええやん、って誰かが首相に入れ知恵でもしはったかね(笑)。」
g:「あり得る。」
b:「だいたいこの手のことって言うのはきれいな看板つけて誤魔化していることがい多いんやな。」
g:「だいたい世界最大の軍隊を司る部局が国防総省(Department of Defense)やからね。アメリカの『防衛』って言葉への認識は意に沿わない者やめんどくさいのを力で排除する行為も含んでいるんだよ、そもそも。」
b:「なるほど。」
g:「しかも名称が変わったのが1947年。それまでは何て呼ばれていたと思う?」
b:「さぁ?」
g:「Department of War。、つまり・・・」
b:「戦争省!」
g:「堂々と使っていた言葉をわざわざ改称するときって、なんかきなくさいよな。」
b:「安保法案をわざわざ国際平和支援法って呼びかえるみたいやな。」
g:「言い換えといえば、原子力発電所って英語ではnuclear power plant。つまりnuclear bombと同じ言葉を使う。」
b:「ほんまは核爆弾と同じで、核発電所なんやな。」
g:「日本人は核という言葉に拒否感が強いから、原子力と言い換えた、と。」
b:「ありえるな。」
g:「そもそもその名前は権力を持っている側がつけているからね。」
b:「ネーミングとかに騙されたらあかんね。」
g:「人は誰でも、自分自身の考えを主張したいとき、自分にとって有利となるように言葉を選ぶ、ということ。」
b:「その言葉の裏側にある意図を、しっかりとひとつひとつ吟味して受け取る意識を持たなきゃ、ってことやな。」

うだうだとしゃべっているうちに、ひとつ気がついた。
そもそも『戦争』という言葉そのものの解釈が、この法案を推進したい側と反対したい側で違うみたいだな。
推進側は、アメリカが第二次大戦後にすすめてきたことようなことはすべて警察行為や防衛行為で戦争ではない、と考えているようだ。国際秩序の危機に対して武力も含めてアクションをとるのは日本のような経済大国であれば当然の責任である、と。まして近隣の国に脅威がある、こちらの実力を見せておかなければいけないし、そのときにアメリカを頼りにしなくちゃいけないのはカッコ悪いし、本当にアテにしていいかどうかはわからない、と。
反対側の言う戦争は、なんであれ国家の名の下の武力によって人を殺したり殺されたりすることすべてを指している。どんな相手であれ武力による威嚇ではなく話し合いで解決するのが筋だし、悲惨な戦争を経験した私たちの国はそういう方向性を維持すべきだ、と。
まずはこの認識の違いをはっきりと示していくことがどっちにしても理解の第一歩なんではないかと。
そういう意味でも「戦争法案」という呼び方や徴兵制まで飛躍した非難は控えて、どんなリスクが発生するのか、まったく話題にはならないけど金銭的な負担の増大まで含めてもっと突っ込んだ論議をしてほしいとは思うのだけど。

この本のサブタイトルには“言葉を疑い、言葉で戦う”とある。
その言葉がどんな意図を持って名づけられている言葉なのか 、鵜呑みにせずに考えることを怠っていると、気がついたらとんでもないところへ連れていかれてしまうのかも知れない。
小森さんとアーサーさんは対談の中でこんなキーワードと処方箋を出していました。
「権力の側が言葉の決定権を持っている」
「言葉が変わるときには何かある」
「処方箋① 言葉の歴史的経緯をたどる」
「処方箋② 翻訳に置き換えてみる」
「処方箋③ 言葉の移り変わりに注意する」
そういう視点で世の中で起きていることを冷静に見まわしてみることは大切だな。
雰囲気や感情に流されず、冷静に、論理的に、欺いたり巻きこんだりなし崩しにしようとしたりされたりすることから身を守りたいものです。



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コメント

[C2610]

mono-monoさん、こんにちは。
だらだらと長いおしゃべりにおつきあいいただきありがとうございます。
goldenとblueの会話形式で書くときは、だいたい論旨がまとまっていないときなんで長くなります(笑)。
ごまかしの言葉ですりぬけたり、揚げ足とりに終始したり、そもそも論議する気があるのかよ、という感じがしますが、これをあほらしいと投げてしまうとますます政治家のやりたい放題になってしまいますから・・・今は何であれNOの意思表示が必要かと。

[C2609]

面白かったです。
面白かった、は適当ではないかもしれませんが、ウンウン、なるほど、そうだよね、と読みました。
しかし、リスクは高まらないとか、よくもまあしれっと言いますよね。
野党が発する言葉の的外れっぷりもなんなのでしょうか。
グルなのかと思っちゃうほどです。

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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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