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♪ANOTHER TIME ANOTHER PLACE

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Another Time Another Place / Bryan Ferry

The 'In' Crowd
Smoke Gets In Your Eyes
Walk A Mile In My Shoes
Funny How Time Slips Away
You Are My Sunshine
(What A) Wonderful World
It Ain't Me Babe
Fingerpoppin'
Help Me Make It Through The Night
Another Time, Another Place

ブライアン・フェリーのことを初めて知ったのは、1985年のヒット・アルバム“Boys and Girls”だった。時代はバブル景気の真っ只中、ゴージャスなイタリアン・スーツに身を包んで前髪を垂らしてくねくねと体を踊らせながら男女のよしなしごとを歌うダンディでバブリーなおやじにパンク好き少年が共感できるはずなど到底なく、むしろ忌み嫌い唾を吐くべき対象でしかなかったわけで、当時とても高い評価を得ていたロキシー・ミュージックの“Avalon”ですら、そのよさはさっぱりチンプンカンプンだったのだ。こんなもの、ロックではない、と。
そんな僕がブライアン・フェリーに惹かれていったのは、どこかのオムニバス・アルバム、50年代60年代のソウルの名曲カバーを集めてような、で聴いた“Smoke Gets in Your Eyes”のカバーを聴いてからだった。
プラターズのたわいもない感傷的な失恋ソングが、この人にかかると、深い深い絶望と数えきれないくらいの苦しみと嘆きの歌に変わってしまっていたのだ。
心をぐさりとえぐりとられるように痛々しく、儚くヒリヒリとした孤独を、とことん自己陶酔しながら歌い上げることができるこの人の表現力。ただの粋がったダンディおやじではないんだな、と。
来る日も来る日も酒と女とパーティーに明け暮れてその夜限りの欲望に自らを浸しながら、そんな自堕落な自分に虚しさを感じている。そしてそれでもそんな自堕落な生活から抜け出すことができない苦しみ。
そんな痛々しさを背負った男だからこそ歌える歌。
それは紛れもなくブルースであり、ソウル・ミュージックだ、と。

その“Smoke Gets in Your Eyes”が収められたこのアルバムは、1974年発表のセカンド・ソロ・アルバム。
ラムゼイ・ルイスでも有名なドビー・グレイの64年のヒット曲"The 'In' Crowd"やアイク&ティナ・ターナーの“Fingerpoppin'”なんかはかなり当時のロキシー・ミュージックっぽいギクシャクしてエキセントリックなプラスティック感があるけれど、全体としてロキシーよりもソウルフル。
原曲よりも幾分タイトなサム・クックの“Wonderful World”はまぁご愛嬌だけれど、レイ・チャールズで有名な“You're my Sunshine”なんかはレイとは真逆の、スライド・ギターがキリキリ痛むようなレイジーなラブ・ソングになっていて、ちょっとジョン・レノンのカバー手法を思い出してしまう。
ソウル以外では、アトランタ出身のシンガーソングライター、ジョー・サウスの"Walk A Mile In My Shoes"、カントリーの大御所ウィリー・ネルソンの"Funny How Time Slips Away "、そしてファースト・ソロ・アルバムでも"Hard Rain is Gonna Fall"をカバーしていたディランの"It ain't me Babe"。クレジットではクリス・クリストファーソンとなっている"Help Me Make It Through The Night"は、グラディス・ナイト&ザ・ピップスのバージョンが大好きだったな。グラディスが熱唱するブリッジの部分でフェリーさんはファルセットを使って一瞬感情を昂ぶらせた後、グッと抑制する。泣き叫びたいような気持ちをあえて鎮めるところにジンと来る。

いずれも原曲の持つ様々な感情の中の裏にあった悲しみや痛みややるせなさを表側に引っ張り出してくるような演奏と歌唱だと思う。そして癒されない。途方に暮れさせてしまうような歌声だ。
なのに、どうしてだか心にしみる。
真夜中に独り、こうしてヘッドフォンで聴いていると、なぜだか突然泣き出してしまいそうになる。
そして、思う。
こんなヒリヒリした感情を、本当はわかりたくはなかったな、と。



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コメント

[C2578]

yuccalinaさん、こんにちは。
だめでしたねぇ、ロキシー・ミュージック。絶賛する人がいればいるほどなんだか素直に聴けなくなってしまう、という天邪鬼さもあったとは思いますが(笑)。
今もそんなに大好きというわけではないのですが、妙に心にひっかかってしまう不思議な魅力についつい聴いてしまう、みたいな感じです。


  • 2015-06-14 10:53
  • goldenblue
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  • 編集

[C2577]

こんにちは。
確かにロキシーもソロもパンクの価値観とは相容れなかったでしょうね。でも、私はフレッシュ&ブラッドから聴いてて、ロキシーは好きでした。初めて行った海外アーティストのコンサートが、83年アヴァロン・ツアーの武道館だったんです。
パンク&ニューウェイヴにハマってた筈のワタクシが、なじぇにロキシーOKだったのか?答えは簡単で、渋谷陽一のサウンドストリートのせいです。当時は欲しいレコードを買えず、YouTubeもない時代、サンストでロキシー特集した時のテープを、大切に聴いていましたわ。
とか、色々と思い出してしまいました。
フェリーはロキシー初期の化粧&グラムファッションよりも、やっぱスーツがお似合いです。
  • 2015-06-13 13:03
  • yuccalina
  • URL
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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