八月の犬は二度吠える / 鴻上 尚史京都のお盆といえば大文字だ。
よく「大文字焼き」などと書かれたりするのですがこれは誤り。おそらく奈良の若草山の山焼きなんかと混同されているのだと思われますが、この行事は「山焼き」ではなく「送り火」です。京都の人は大文字とは呼ばず「五山送り火」と言いますね。僕も京都に来た頃には誤用して叱られました。
そもそもはお盆に帰ってこられたご先祖様の霊を天国へ返すための行事で、そこにはご先祖様があって今の生があることへの感謝の気持ちや、疫病や戦争などで志半ばで亡くなられた魂の供養というような意味が込められています。
さて、鴻上尚史さんのこの小説。
鴻上尚史さんといえば今でこそたまにテレビでコメンテーターをやってる変なおっさんの印象しかないですが、僕が学生だった頃、当時隆盛を極めた小劇場ムーブメントの大劇団・第三舞台を主宰していた天才戯曲家。当時つるんでいた大学の劇団仲間も大ファンで、個人的にも非常に思い出深く、また深い部分で心を揺さぶられた人でもありまして、まぁそういう話は長くなるので別の機会に改めて。
物語は、この行事の厳かさなどまるで考えることすら知らない京都で過ごす浪人生たちのハチャメチャで愉快で大胆で不届きな計画、戌年の夏に大文字の「大」を「犬」に変えてしまえ!という思い付きから始まるてんやわんやと、その計画がへヴィーな事情で頓挫したあとの24年後、40代になった彼らの訳ありな再会の物語です。
もぉ、めちゃくちゃおもしろくって、ハラハラドキドキするかと思えば、ぎゅうううぅうっと胸を締め付けられるようなせつない気持ちがいったりきたりする。鴻上さんの戯曲同様のくだらない笑いも満載で、泣いたり笑ったりしながら一気に読んでしまいました。
ネタバレになるので詳しいことは書きませんが、これはかなりおすすめです。
僕自身も学生時代の4年間を京都の市内で過ごしましたが、大文字をのんびりと見た記憶がありません。
何故かといえば、大文字の当日はバイトしていた居酒屋が死ぬほど忙しかったから。
火が消えるとともにそれまでがらがらだった店内が一気に満員になる、行列ができる、あっちこっちでオーダーが入り、厨房もホールも洗い場もてんやわんやになる。
忙しい忙しいとぼやいたり機嫌が悪くなったりするのは実はまだ中途半端な忙しさであって、本気で死ぬほど忙しいときはただ笑うしかなくなってしまうものだ、ということを僕は大文字の夜にはじめて知りました(笑)。
そういうことも今はちょっと懐かしい思い出です。
その店もとっくの昔になくなって、当時のバイト仲間や、客に飲まされてはよくぐでんぐでんになっていた店員さんたちは、今も元気なんだろうか。
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