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♪FUEGO

ちょっと前のことだけど。
幹部待遇の上司から「◯月◯日にワインの学習会をするから、忙しいとは思うけどためになるから企画のメンバーは全員参加。」ってお達しが来たんだ。
はぁ、まぁね。ワイン、興味あるよ。ビールにポテチと唐揚げなんてもうしんどいからね、おいしいワインを気軽に楽しみたい。ワインによく合うちょっとしたおつまみとか知っておくにこしたことはない。何より、仕事中に堂々と酒が飲めるなんてありがたい話やん。そう思って参加した。
騙された。
学習会に来られたのは、なんとか言うその筋ではそれなりに高名なお方らしい。70もとうに過ぎた爺さんだけどまぁそれはどうでもいい。
その爺さんが語りはじめたのがまずワインの歴史。メソポタミア地方でシュメール人がどうのこうの。西ローマ帝国のなんとか大帝がどうのこうの。フランスではワインに格付けがあってどうのこうの。近年はチリやら南アフリカやら新世界産のワインが安く出回っているがやはりフランスのものとは格が違うどうのこうの。ボジョレー・ヌーボーを有り難がるのは日本人だけでワインは熟成してこそどうのこうの。大手の量販店では最近ペットボトル入りのキャップを使ったものも出ているがワインというものは瓶とコルクでなければどうのこうの。
あー、もういいよ、って。
すまんね、私ゃペットボトルのワインをおいしくいただいております。それが何か?

嫌いなんだ。権威主義。
そりゃこだわったワインは違うのだろう。本当のワインのおいしさを私たちが知らないだけなんだろう。
ただね、所詮酒は酒。おいしく飲んで酔っぱらえればそれでいいもの。
そこに必要以上の蘊蓄と価値をつけて権威付けされていった結果、カジュアルな飲み方が拒絶され、新規参入のハードルが高くなり、結果的には心や体で楽しめない頭でっかちなものに成り下がってしまうのだ。有り難がるのはおいしさではなくそのまわりの付属物に食いついた奴らばっかりで本質は置き去り、ってなことになってしまう。

本来楽しむためのものが権威付けされて敷居を高くしてしまった結果、市井の人々の暮らしから乖離して、一般人には楽しめないものにされてしまった例がいくつもある。
歌舞伎や浄瑠璃、講談にオペラ、ジャズ。ゴルフやバレエやタカラヅカもその類いだね。かろうじてまだ庶民側にいる落語や野球だって、爺さんの専有物にしているうちにきっとそうなっちゃうぜ。そしてロックンロールも。
すでにプログレやヘヴィメタルなんてとうにマニア専門なんだし、ビートルズやビーチボーイズや大瀧詠一だってマニア以外が楽しんではいけないような雰囲気を作っている奴らがいる。ストーンズだって下手すりゃもうそうなっちゃてるような気がする。本人たちではなく、やたらと有り難がって意味付けしたがって一元さんを上から目線で見下ろすような奴らのせいで。

酒、音楽、スポーツ、芸術。そのことに人生をかけて追及しているプロフェッショナルのこだわりはものすごい。それは賞賛されて然るべきものだ。
でも、本来お勉強するものじゃない、有り難がるためのものじゃない。楽しむものだ。
そしてその楽しみはとても個人的なものだ。
◯◯を知らないようじゃダメだ、初心者がいっちょまえに語るんじゃない、シロートにはこの高尚さはわからない、そんなことを言うような奴らが偉そうにしだしたら終わりだな。

そんなわけで今日もペットボトルのワインをいただく。アテはツナ缶だ。それでじゅうぶん楽しめるんだからいいじゃないか。
敢えてジャズを聴こうか。リラックスして楽しめて踊れるやつ。

Fuego
Fuego / Donald Byrd


Fuego
Bup A Loup
Funky Mama
Low Life
Lament
Amen

ドナルド・バード(tp)、ジャッキー・マクリーン(sax)、デューク・ピアソン(p)、ダグ・ワトキンス(b)、レックス・ハンフリーズ(ds)
1959年録音

ドナルド・バードさんがいわゆるジャズ界の中でどれだけの凄い人なのかはよく知らないけれど、ファンキー・ジャズの名盤と言われるこのアルバムは、いわゆるジャズの入門編のひとつらしくて、「これを知らないようじゃジャズは語れない」的な紹介をされる一方で「これを喜んでいるうちはまだまだ初心者」的な扱われ方もされているようだ。
入門?初心者?最初から入門とか求道とかするつもりなんてないんだもの、勘弁してください。
このレコードに納められた熱くて黒人教会直系のゴスペリーでブルージーな音楽は、とにかく楽しいのだ。
この5人が繰り広げるホットでフレンドリーな演奏は、ジャズとかブルースとかロックとかそういうジャンルの垣根を越えて、とにかくゴキゲンなのだ。
もちろん、この音楽の向こうにある黒人音楽の世界は奥深く探求していくだけの価値のあるものだ。だけど、そもそも音楽は、そのことを知らなければ楽しんではいけないという種類のものではない。
酒と同じで、酔っぱらってしまえばOK。リラックスして楽しい気分になれればOK。
結局のところはそれでじゅうぶんなのだと思う。



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コメント

[C2530]

非双子さん、こんばんは。
ビートルズしか知らないビートルズ至上主義者、たまにおられます。とても困ります(笑)。そう思うのは勝手だけれど、そういう人に限って相手の意見を全否定したりされますから。

歴史や知識を知ることはとても楽しいことなんですが、それらは所詮背景であって本質ではないのです。ちょっと知識を持つと勘違いする人が増えるのですよね、とまぁ自戒もこめつつ(笑)。
  • 2015-04-15 22:39
  • goldenblue
  • URL
  • 編集

[C2529]

>本来お勉強するものじゃない、有り難がるためのものじゃない。楽しむものだ。
>そしてその楽しみはとても個人的なものだ。

私が音楽雑誌を読まなかったのは、知識から入るのが嫌だったから
ラジオや、友人のお勧めレコードが情報源。

数年前、ビートルズ以外のポップスを聴かないで、
西洋の音楽史を理解したらしい?飲み友達が
「ビートルズが居なかったら今のロックは無い」発言に
「ビートルズ以降のロックを聞いてから音楽を語れや!!」って喧嘩になったことが有ります(笑

”薀蓄が無ければ落ち着かない人種”も結構いるみたい・・・

私は、数字や名詞を記憶するのが大苦手。
感覚だけで生きてますので、、
  • 2015-04-15 21:25
  • 非双子
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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