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♪NOTHING BUT TRUTH

Nothing But the Truth
Nothing But the Truth / Ruben Blades


The Hit
I Can't Say
Hopes On Hold
The Miranda Syndrome
Letters To The Vatican
The Calm Before The Storm
In Salvador
The Letter
Chameleons
Ollie's Doo-Wop
Shamed Into Love

ルーベン・ブラデスさん、パナマが生んだサルサのヒーロー、いや、パナマのみならず中南米では広く知られたスーパースター。
70年代後半にウィリー・コローンの楽団で頭角を現して大ヒットを飛ばし、南米のヌエヴァ・カンシオンと呼ばれるいわゆるニューウェイヴの運動の先頭に立ってサルサに知的なエッセンスをもたらしグラミー賞も受賞。また映画俳優としても活動し、一方で自ら政党を立ち上げてパナマの大統領に立候補するなど一時期は音楽活動を停止して政治家に専念していたが今は再開しているらしい。

このアルバムはそんなルーベンが全曲英語で録音してワールド・ワイドなマーケットに打って出た作品で、なにしろコラボしているメンバーが、ルー・リード、スティング、エルヴィス・コステロ・・・というすごい面々。もちろんそういう面々の参加があって人のことを知ったわけで、知ったかぶりして最初に書いた蘊蓄も当然後から知った話なのですが、まぁそれはともかく、スティングは"I Can't Say"を提供、コステロは"The Miranda Syndrome"と"Shamed Into Love"を共作しギターで録音にも参加、ルー・リードに至っては"Hopes On Hold "、"Letters To The Vatican"、"The Calm Before The Storm "と3曲もルーベンと共作してコーラスで参加している。
知的さとシビアな批評眼とパンク的な批判精神を持ち合わせ、優れたソングライター/ストーリーテラーであり、なおかつ当人同士はとても仲が悪そうな3人がこういう形で共演するというのは、このルーベンさんの人徳ではなかろうかと思いますが(笑)、そういう3人が共感し力を貸すだけあって、この方の歌もとてもシビアな状況が物語によって語られます。
街をうろつくゴロツキたちを描いた“The Hit”、ローマ法王への手紙という形で貧困の窮状を訴える“Letters to the Vatican”、レゲエ調の“In Salvardor”ではエル・サルヴァドールでの人権抑圧を、ドゥー・ワップ調の“Ollie's DooWap”ではニカラグアを、“The Letter”ではエイズを。
プロデューサーはトミー・リピューマ、バックにはジョン・ロビンソン、エイブラハム・ラボリエル、ポウリーニョ・ダ・コスタ、カルロス・リオスといったそうそうたるメンバーが参加していて、サルサ度はかなり低めのコンテンポラリーな音、その上にのるルーベンのヴォーカルは軽妙で飄々としていて、シビアな現実をしかめっつらでなく歌っている。

音楽を通じて社会的なメッセージを発信することにはきっと賛否両論があるでしょう。
音楽で社会を変革しようなんて目論みは60年代にとうに挫折しているわけで、音楽はただ音楽として楽しめることがまずは第一。けど一方で暮らしから出た様々な思いの中には当然社会的な動きから来るものも含まれるわけで、真摯に人々の暮らしに向き合えばそこに政治的なメッセージが入り込んで来るのも自然なことなんだろうと思います。
ルーベンさんはその穏やかなトーンの声質もあってか、シビアな現実を歌っても重々しくならない、反体制的なことを歌っても革命家みたいにこめかみに青筋がヒクヒクしたりしないのがいいね。
飄々と、淡々と歌われる物語の一つ一つに、貧しさに喘ぎ不条理に軋みながらも生きる人々の強さと弱さが見え隠れする。
僕はテレビのニュースを眺めながら、もし自分がハンガリーやオーストリアに住んでいたら、押し寄せてくる難民にどんな気持ちを持つのだろうか、と考えている。



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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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