このことを書くべきか、書かないでいるべきか、或いはどう書き留めておこうかととても悩んだけれど、自分自身のために書いておくことにする。 一週間ちょっと前のことだ。 しばらく前まで同じ職場で勤めていた男(仮にHとする)が、自殺した。首吊りだったそうだ。 四月ごろからは鬱病で休職していた、ということは知っていた。同じ職場で働いていた頃のHの印象は、明るくてユーモアのある優しい男だったから、そのHが鬱ということ...
Hの自殺を聞いてから、ひとつだけ怖くなった行為がある。 それは、誰もいない部屋の扉を開けること。 そこに天井から誰かがぶらさがっているのではないか、そこに血まみれの死体が転がっているのではないか。扉を開ける瞬間にふとそんな映像が浮かんでびくっとしてしまうのだ。 生きていることと死んでしまうことは、裏表ではなく地続きの同じ平面上ある。 日常生活にぽっくり開いた落とし穴みたいに、死は誰の身にもすぐそばにあ...
死ぬな、生きろ。―アイデンティティ・クライシス/山川 健一 20世紀は科学の進歩の時代だった。世の中はただひたすらに、昨日よりも今日、今日よりも明日、と限りなく進歩してきた。いろんなことが便利になり豊かになった。それは多くの人々を重労働から解放し、飢えや病から解放し、人類の未来をどんどんと切り開いていったのだけれど、同時に世界はものすごいスピードで回転することを強いられるようになってしまったのだと思う。...
9月になって早や10日以上過ぎてしまった。 蒸し暑い日やどんよりした日もありながら、日ごとに和らいでゆく日差し、日ごとに高くなってゆく空。 夜にもなれば涼しい風、虫の声。 秋は日ごとにじわじわと深まってゆく。 もし季節に性別があるとすれば、なんとなくだけれど、9月には女性的な印象がある。 気まぐれに日によってころころと佇まいを変えていくのに右往左往させられはするけれど、どこか大らかで、すべてを包み込むよ...
ゴールドラッシュのあとで 天辰保文のロック・スクラップ・ブック / 天辰 保文 音楽について語っている文章を読むことが好きだ。 それが音楽を聴く事より好きだ、と言ってしまえば本末転倒なのだけれど、1ヶ月間話題になることだけが優先された消費されることを目的としたようなくだらない音楽を聴いているよりは、音楽への愛情のこもった文章を読んでいる方がいい。 チャボが対談している、というのに興味を持って手に...
台風去って、よく晴れた秋の空。 “さびしさに 宿をたち出でて ながむれば いづくも同じ 秋の夕暮” ってのは確か百人一首の誰の句だったかしら? さみしさに居たたまれなくなって誰かに寄り添おうとしたのに、逆にすれ違ってしまって余計にさみしさがこみ上げてきてしまう、そんな感じなのでしょうか? 秋っていう季節は、なんとなくひとりでぼぉっとしているのが心地よい。 さみしくはない、哀しくもない、それなりに過ごしてきた...
THE BARN/佐野元春 and The Hobo King Band 1997年発表のHobo King Bandとしての2枚目のアルバム『THE BARN』。 高校生の頃以来の佐野ファンの僕だけど、実はこのアルバムはあんまり聴きこんだ記憶がなかった。 プロデューサーにジョン・サイモンを迎えウッドストックで録音されただけあって、70年代前半のルーツ系バンドっぽい音を目指したようなそのサウンドは、なんだか佐野さんの声とはいまひとつマッチしていないように聴こえ...
「秋」という季節の言葉の語源は ・空の色が晴れ渡って「明らか」の「あき」 ・穀物などの収穫が「飽き満ちる」の「あき」 ・木々が紅葉し「赤く色づく」の「あか」から転じた「あき」 などの説があるそうだ。 空は晴れ渡り、湿気も低く、気持ちのよい風が吹く季節。 作物や果物が実る充実した季節。 時折の嵐。 そして不毛の冬への準備を始める季節。 冷蔵庫もスーパーマーケットもない時代、そして多くの人々が自分の食べ物を自...