※この記事はフィクションです1905年の5月。日本海海戦に於いて日本軍はバルチック艦隊を見事撃破し世界の驚きと称賛を浴びたものの、国家予算は既に破綻状態であった。アメリカを仲介にロシアとの停戦を謀るが合意に至らず、ロシアはさらに軍備を増強し、北海道の西側に軍艦を集め、小樽へ侵攻した。翌1906年2月、日本は降伏し、ウラジオストクで締結された講和条約により北海道はロシアに割譲されることになった。ロシアは函館に...
「なぁ、アレクシスさん、俺な、自分のバンド作ろう思うてんねん。ちょっと前に出させてもろうたライヴを覗きに来てた若造らがおったやろ。ミックとキースって言うんやけどな、こないだちょっとジャムったんやけど、割りとええセンスしとんねん。なんていうかなぁ、お坊ちゃんの割には、なんかこう、つかみにかかってくるようなセンスがあるっていうか。うん、まぁ、いわゆるブルース・フィーリングっていうんかな。あんた以外には...
「そもそもあんたって優しすぎるのよ。そうでなきゃただの馬鹿ね。」開口一番、カオルさんはそんな言葉を投げつけてきた。「馬鹿はあんまりじゃない?俺なりには一生懸命やってるんだけど。」試合が終わったばかりの疲れた体に藪から棒に投げつけられた厳しい言葉に僕はついムキになった。「あたしね、自分で“一生懸命やってる”っていう人はあんまり好きじゃないのよ。そんなの誰だって“自分なり”には一生懸命やってるわよ。サボっ...
時は204X年。秋の臨時国会で「禁煙法」が可決された。ついにタバコは非合法になったのだ。国会前では愛煙家たちが「タバコを吸う権利を!」とデモを行って訴えたが、世論は冷淡だった。今や日本の喫煙人口はわずかに2.6%、しかもそのほとんどは納税していない70代以上だったのだからやむを得ない。喫煙者が減るにつれて国内のタバコ農家も収入減から次々と廃業し、JTも5年前からは高齢者用の医薬品や子供のいる家庭への...
喫茶店のアルバイトは退屈だった。人通りの多い繁華街の大衆喫茶、薄暗い室内、たいしてうまくもないブレンドコーヒーに立地がいい分それなりに代金をとるふつーのカレーライスやナポリタン。バイトの時間が6時から10時だったせいもあるかもしれない。普通の人間はその時間帯はコーヒーなんて飲まずに飯食うものだからね。退屈なアルバイトの唯一の楽しみは、有線放送にリクエストすることだった。お店ごとに割り振られた有線を...
ブロ友のサーシャさんが、めっちゃ楽しいことしてた。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」のサーシャさん版なんですが、これがめちゃくちゃおもしろくって。『徒然なるままに春を詠む 』こういう楽しいことは、自分もやってみたくなる。楽しいことはひとり占めしちゃいけない。楽しいことはみんなでやればもっと楽しくなる。というわけで、「もしもあの人が春を書いたら…きっとこんな感じ」goldenblue版、行ってみ...
彼女はとてもいい子 神様と祖国を愛してて エルヴィスが大好きで 車とボーイフレンドを愛してて 郊外の町では 1日の時間がとても長い 空き地には高速道路が通ってて 僕は悪い男 彼女のことを恋しくもない 僕は悪い男 彼女の心を粉々にした 堕ちていく 僕は堕ちていく 奈落の底までまっ逆さまに 僕は堕ちていく (Free Fallin' / Tom Petty)パン屋の営業の仕...
「これ、いけそやな。」「だいじょうぶでしょ。」「3万、山分けな。」前輪にロックがかかっているけれど、前輪をひょいと持ち上げればバイクはするすると動く。ロックはあとでぶち壊す。プレートは工具を使えば簡単にはずせる。 その時だ。「オイッ!何しとんねん!」と叫び声。続いて、「タカっさん、やばいよ。逃げよう!」と、ヒロユキ。2階のベランダから若い男が何か叫んでいる。僕たちはその場に運び出しかけていたバイク...
サンフランシスコの街は、思っていたより狭かった。バス・ディーポがあるのは、半島の付け根にあたる南東部の端っこのダウンタウン。そこから中心街が広がり、坂道があって、有名なケーブルカーが走っている。ケーブルカーで丘を越えれば海だ。フィッシャーマンズ・ワーフがあって、シーフードを食べさせるレストランが並んでいて、ストリートでは大道芸人たちがあちらこちらでパントマイムやら手品やらをやっている。周りにはカッ...
「あーあ、やっぱり1こでも年上の方が、頼りがいがあるように思うんかねー。」そう言いながら、スミトが川へ石を投げる。京都・鴨川・三条川原。 その年の春、僕らは大学に入学して京都へ来た。メグちゃんはクラスのマドンナ的存在で、僕もスミトも、好きとかつきあいたいとか思うほどではないにせよ、漠然とした憧れを抱いていた。そんなメグちゃんに彼氏が出来たと聞いたのは秋になってしばらくたった頃。男は同じクラスの、浪...
「歩いて帰れるんちゃう?」と言い出したのは真人だったか、啓介だったか。高校2年の僕たちは、家で親となんか正月を迎えてられっかよ、と大晦日に住吉大社へ初詣に行くことにした。夜8時に地元の駅に集合、住吉大社までは電車で30分くらい。人混みにもみくちゃにされながら、神社の本殿までたどり着いて、なんとかお賽銭を投げて、おみくじをひいて、そこまではまぁよかった。ひととおりの行事を済ましてしまうと、もうするこ...
「大城直俊さんですね。署まで任意同行願えますか。」ギターを抱えてスタジオへ行こうと扉を開けた途端、角から制服の男二人組が現れ、手帳をかざしてそう言った。「え?何のことかよくわからないのですが?今から約束がありまして。」「楽器演奏の合同練習ですね。その事でしたら問題はありません。」「は?」「駒田太郎さん、原達也さん、梨野亜里沙さん、みなさん署に同行いただいておりますから。」「どういうことだ?」「詳し...
「こないだ朝礼のあとで部長にこっぴどく怒られてさ、俺の朝礼の態度が悪いっていうんだよ。ふらふらしたり、壁にもたれたりとか、人の話を聴く姿勢じゃない、ってさ。いやー、そんな態度してたつもりないんだけど。」メシ食いながら、おもむろにTがそう話しはじめた。「うーん、そうかなー。そんな気になるようなことはなかったけど。」「ま、確かに専務の話が長すぎて。出た、いつもの具体性ゼロのスローガンだけのハッパかけ!...
電車を降りて駅を出た瞬間、空がピカッと光った気がした。え、カミナリ?まだ六月になったばかりだというのに。それとも錯覚?と思う間もなく、また、まるで切れかけた蛍光灯みたいに青白くほんの瞬間光る。西の空の雲が反射する。どどどどどど、と地鳴りのような低い響き。そう思ってすぐに、実は地鳴りなんて聞いたことはないけれど、と思う。あなたの心ない言葉で私は傷ついた、とLineのメッセージ。そんなつもりなんてなかった...
その日は朝からある工場への訪問で、某高級住宅街近辺の私鉄の駅で現地集合だった。いつもより早起きして1時間半以上電車を乗り継いで、到着したのは集合時間10分前。初めて降りる駅、あー、こっからまた車で移動して工場へ行くとなると、タバコ吸っとけるのはここしかないよね、ってんで、駅前へ。おおっ、向こうに公園があるね、人通りもないしここなら迷惑にならないよね、とようやく朝の一服を。青い空、あったかい、煙が空...