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音楽歳時記「処暑」

処暑とは、つまりは暑さの止まる処。昼間はまだ暑い日が続くけれど、朝晩には涼しい風も吹きはじめる時期なのだそうだ。
現実は、まだまだこれからが残暑、という感じではあるけれど、ピークは越してるという実感もあり。

過ぎていく夏を思えば、少しだけ感傷的な気分になる。
とはいっても、夏らしいことなんて何にもしなかったけれど(笑)。
秋は深まるけど、夏は過ぎていくものなんだね。
なんとなく感傷的な気分によく似合うのは、ロイ・オービソンの甘い声だ。

roy orbison mystery girl
Mystery Girl / Roy Orbison

この甘い声がたまらないんだな。
過ぎ去っていった思い出を拾い集めては慈しむような。
そんなことを思いながら、夏の思い出を思い返してみる。
子供会の野球の練習や盆踊りが嫌いで泣いて嫌がった小学生の頃。嫌々行った盆踊りでもらう子供じみた駄菓子のセットが大嫌いだった。
塾をサボって好きな女の子の住むマンションの部屋を坂の上からただぼぉっと眺めていた中学生の頃。もやもやとした思いをどうすることもできなかった。
毎日がアルバイトに追われてクーラーのない部屋で流れ出る汗をタオルで吹きながら缶ビールを飲んでいた大学生の夏や、2tトラックにどっかり積んだパンを、汗まみれになりながらスーパーへ納品しては、八百屋あがりの息の臭いスーパーの店長に説教を食らっていた夏、汗だくになって工事現場で天井用の石膏ボードを何百も何千も運び続けていた日雇い労働の夏。
あら、ろくな思い出がないじゃないか(笑)。
いや、そんなことばっかりでもなかったはずだ。
小学校の裏の田んぼで友達といっしょに夢中になってザリガニ釣りしたり食用ガエル捕まえたり、田舎の親戚の家で花火大会したりお墓で肝だめししたり、部活の合宿なんてのも夏だった。部活も練習も少しも楽しくはなかったけど、家を離れて夜更かしするのは楽しかったよな。船で丸二日かけて行った沖縄の海とか、バイト明けに仲間たちと一晩中車を飛ばして行った鳥取砂丘で見た夜明けとか、つきあっていた彼女と訪れた夏の終わりの海辺とか。それから、別れ際にドキドキする思いを抑えながらなんとか引き留めた彼女と交わしたキスのときめきとか。
いずれにしても夏の思い出は、どこかせつない。ほとんど苦くてときどき甘い。
まぁ夏に限らず思い出というものはそういうものなのかも知れないけれど。

少しだけ涼しくなりはじめた夏の夜風と、甘くせつない思い出とロイ・オービソンはとても相性がいい。
苦い思い出だって、いつか透き通っていって、ソーダ水みたいに甘くなっていくものさ、とロイ・オービソンがせつない声で歌う。
まだまだ暑いじゃん、なんてボヤいてはみても、遅かれ早かれ夏は過ぎていくのだ。
そういうものだよね、と一人頷きながら、僕は缶ビールを開けてタバコをふかす。







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[C3082] Re: リンダとボス

> ☆ ロイ・オービソンを知ったのはリンダ・ロンシュタットがカヴァーした「ブルー・バイユー」ですから40年も前の話になります(苦笑)。でも一番印象深いのは,やはりブルース・スプリングスティーンが「明日なき暴走」を彼のように歌うと決めていたことを知った時でしょうか。


僕は、ロイ・オービソンさんのことを初めて知ったのは、ブルース・スプリングスティーンの名曲“Thunderroad”の中の「淋しい人たちのために歌うロイ・オービソン」というフレーズでした。
それからジョン・レノンがインタビューで語っていた「“Starting Over”はロイ・オービソンみたいにほっぺたを中からなめるみたいにして歌ったんだ。」という言葉。
じゃあ聴いてみなくっちゃ、ってレコードを借りてはきたものの、やたら甘くてありゃりゃぁー?って感じでしたね、当時は。おもいっきり肩透かし。ビートは効いてないし、大げさなストリングスは入るし、え、全然ロックちゃうやん、と。
この甘甘が気持ちよく感じるようになってきたのは40を越してからだったなぁ。
  • 2017-08-25 22:19
  • golden blue
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Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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