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音楽歳時記シーズン3「処暑」

8月23日が処暑。
夏の暑さが止まる場所という意味の節季。
実際、大きな台風が去ったあと、異常な猛暑は少し後退。蒸しっと湿気が高いとはいえ、最高気温32℃とか最低気温25℃なんていう数字を見るとちょっとほっとするね。
まだまだ蒸し暑いし、秋の気配とまでは言わないけれど、蝉の啼く声もすっかりおとなしくなったし、夜には秋の虫の声もする。

リラックスできる穏やかな音楽でも聴いて、今日はワン・ブレイクとしよう。
夏の疲れを癒してくれる、爽やかな風の訪れを待ちながら。

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Giving You The Best I Got / Anita Baker


涼しげな秋の風のように、しっとりとしたムードを湛えたアニタ・ベイカーさん。
アダルティー、シルキー、ロマンチック、ジャジー、スムージー・・・そんな言葉で形容される彼女の音楽は確かに表面上はお洒落だ。
けど、彼女の歌はただお洒落なだけではない。ただのお嬢さんシンガーではない、芯の太さ、ずしんと心に響く強さがある。
歌の底にしっかりとあるソウルやゴスペルのルーツの重みや臭みを感じさせないよう丁寧な加工を施されているけれど、お洒落なツールであることだけを目的にした薄っぺらい音楽とは本質的に違うんじゃないかと僕はそう感じています。



こういう穏やかで落ち着いた音の気分で一日を始めて、できるものならこのままそういう気分で終えたいね。
忙しい忙しいとカリカリしている連中なんて意に介さずに。
だって、本当に忙しいときは忙しいなんてぼやいてすらいられない。
心を落ち着けて、集中力を維持して、目の前の仕事の山をひとつずつ片付けていくしかないんだもの。
勢いだけの仕事は長続きしない、
気分に任せればムラがでる。
力任せでは折れてしまう。
芯には太いものを持ちつつ、きめ細やかに、しなやかに、穏やかに。
そういうのが本当の強さだと思うのですよね。


お盆もろくに休まず、あれもこれもとやってくる仕事の山と格闘する胸突八丁の夏の終わり。
本当の強さ、と自分がイメージするものを手に入れるにはまだまだ修羅場がてんこもりなんだろうけど、まー、とりあえずはやるしかないので。
バテたときこそ、カリカリしそうなときこそ、こんな穏やかな音楽で心の換気を。
落ち着いて、丁寧な気持ちの加工ができればいいな、と願いながら、夏の火照った心を少し鎮める。











嵐の夜の

台風の夜。
向かいの疎水沿いにずらっと並んだ木々が枝と葉っぱをさわさわと揺らしている。
やがてシャワーのような雨。
一定のボリュームで一定の量を降らす雨の音は疲れた体に心地よい。
夜11時。
やたらとはしゃいでいるニュース番組の台風報道。
画面の枠の下段ではテロップが延々と流れている。JR山陽新幹線 小倉~新大阪 運休、ANA300便を運休、避難勧告 奈良県黒滝村 全域、十津川村 全域・・・画面の左側では日本列島の地図と台風の経路、現在地は松江市沖あたりか。

ふとんに横になって、本を読む。
雨のシャワーのリズムが妙に落ち着く。
いくつかページをすすめたところで、耳元を不愉快な音が横切った。
奴だ。
ほとんど外出もしていないのに、どこから紛れこんだのか。
一度めは無視を決め込んで、本の世界に戻る。
プーーーーン。
二度め。
こうなってしまってはもはや、本の世界に戻ることはできない。
あきらめよう。
こういうときの対処法なら、今までいくつも経験済みだ。

まずは、呼吸を整えて気配を鎮める。
敢えて無防備を装うのだ。
静かに、寝息のように、心を落ち着かせて横になる。
きっと奴はもう一度やってくる。
スー、スー、スー
スー、スー、スー

プーーーーン

来た。

まだ慌てない。
最短距離まで近づいてくるまで堪えるのだ。

プーーーーン

今だ。

カエルの舌が羽虫を捉えるあのイメージで素早く左手を宙に飛ばす。
見失ったか?
いや、成功だ。
差し出した手のひらの中で引っ掛かったモスキート。
よっし、留めだ、パチン!

そこには赤黒い血。
血を吸ってお腹いっぱいでフラフラだから、やられちゃうんだよな。
どうせ吸われてるなら今更君の命を奪うことはなかったね、ごめんなさい。
でも、俺だって生きていくために身を守らなくっちゃいけない。そこはガチでぶつかるしかなかったんだよ。

反省と後悔と、でも割りきって前へすすんでいくしかないんだ、っていう覚悟と。
そんな嵐の夜でした。


ちなみに、読んでいたのは、池澤夏樹さんの書評集「嵐の夜の読者」でした。
池澤さんならではの視点で描かれた、アカデミックからほんわかまで、非常に興味深い書評集です。

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生きて虜囚の辱しめを受けず


『生きて虜囚の辱しめを受けず』

この言葉は、近衛文麿内閣で当時陸軍大臣だった東条英機が、戦陣訓として通達した言葉だったそうだ。

捕虜になったり囚られたりするのは日本国民として恥だ。敵の捕虜になるくらいなら死ね。

そういう意味の訓示を真に受けてしまった多くの若者たちが、実際は失う必要のない命を戦地で散らした。

太平洋戦争での戦没者は約310万人、そのうち軍人・軍属が240万人と言われているが、もしもこの言葉がなければ、数十万人以上は命を落とすことはなかったのではないだろうか。
ガダルカナルで、ブーゲンビルで、ラバウルで、サイパンで、インパールで。
作戦はすでに崩壊しているにも関わらず突撃していった兵士たちや、捕虜になることを恐れてジャングルに隠れた挙げ句マラリアに罹って病死したり食糧が尽きて餓死した兵士たち。生きて国に帰れないと自決した兵士たち。
もし捕虜になることが恥辱だという刷り込みさえなければ、投降さえすれば多くの命は助かっていたはずなのだ。

清水義範さんは著書『暴言で読む日本史』の中で、この言葉を、他に類を見ないほどの暴言であり愚言である、と断罪していた。

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暴論で読む日本史 / 清水義範

“捕虜になることは、国際的には決して罪でも恥でもない。
戦時国際法でも捕虜には人道的扱いをしなければいけないことが定められている。”
“そもそも、劣勢になるたびに全員自殺してしまうのでは、兵力が低下するだけではないか。東条英機は戦争の勝ち方というものがまるでわかっていなくて、どんなに苦戦でも突撃していくなんてという軍人の美に酔っていただけなのである。”とコテンパンにやっつけている。
そのくせ本人は、戦後GHQに逮捕される直前に自殺を図って死にきれず、最終的に戦犯として死刑になったのもとてもみっともない、と。

まぁ、東条英機が実際どんな人だったのかは知らないし、正直どうでもいい。
『生きて虜囚の辱しめを受けず』という言葉も、東条英機固有の思想というよりは、当時の日本の空気が生んだ思想であっただろうし。
怖いのは、その空気だ。

一見正当性があるかのような暴論が、さも誰しもがそう言っているかのように喧伝される。
じわりじわりとそういう雰囲気が醸成され、いつの間にか誰も反対できなくなってしまう、空気。


NOと言えなきゃね。
NOという人を叩き潰すのが正義だと勘違いしないようにね。
例え主張や信条が違っていたとしても、NOと声を上げた人は護られるべきなんですよね。

みんなそう思ってるよ、なんて言葉にそそのかされちゃいけない。
そういう世論を裏で操ろうとしている輩がいる。そうなったほうがなにかと都合がいい輩がいる。
声の大きな奴や、力の強い奴の言いなりになって、命を落としたり、愛する人を失ったりしたくない。


終戦記念日の季節になると、いつもそういう思いが強くなる。







音楽歳時記シーズン3「立秋」

8月8日、立秋。
暦の上では秋といわれてもちょっとピンと来ない、まだまだ真夏の真っ盛り。
ただ、一番クソ暑い時期は乗り越えた感はありますね。
風や空が少しずつ秋めいてくるまで、あともう少し。

今年の夏は、久しぶりにハイパーマックスに忙しかった。かった、っていうか現在も継続中で忙しいのですが。
ただでさえ夏は、下期のいろんな取り組みが増える上に、新人さんが入ってきて、新人さんに教えながら自分は自分で別の大きな仕事の引き継ぎを受ける、みたいな状況で、ちょっと量も質もかなりマックス。
それを時間やりくりしながら細切れであっちもこっちもやるもんだから、脳細胞は常に沸騰中。
加えてこの暑さ。
そりゃ疲労も溜まるし、バテる。
ついついイラッとしたりピリピリすることも増える。
だめだー。
もっとゆるめなきゃ。

アコースティックなブルースでも聴いて、ゆるゆるでいこう。

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Summer Doze / 憂歌団

関西が誇るブルース・バンド、憂歌団。
初期の、カントリー・ブルース直訳の貧乏臭くて泥くさい時期も、すっきりとおしゃれな音になった80年代中期以降も好きなんだけど、ゆるーいアコースティック・ブルースを演っていた『リラックス・デラックス』や『気分』の頃が一番好きだなー。
このアルバムは、その時期に出た夏テーマのミニアルバム。
僕が持っているのはLPレコードで、今はそこにシングル“You're my angel”やフォーライフ時代の代表曲を足したベスト盤『Taste of UKADAN』として再発されています。

ハンモックで寝そべってセミアコをてれんと爪弾く木村くんのジャケット。
これだけですでにゆるーい気分になれる。
音楽の避暑地。

ビールもいいんだけど、キリッと冷やした冷酒がよくあうんだよ。
ツマミはシンプルに板わさとかイカの塩辛とか。
イカといえば、醤油焼きしたゲソに七味マヨネーズなんてのもいいな。

うー、弛緩。
あー、解放。



もうちょっと夏は続く。
忙しいのもまだまだもうちょっと続く。
へばったり、自爆したりしてしまわないためには、気分のメリハリや心の換気が必要だ。
そんなとき、音楽っていいな、って思うのです。







北海道

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仕事で北海道に行ってきました。
目的はプライベートブランドの牛乳の産地研修。
20人以上の若い職員たちの引率と、自身の業務である広告媒体の取材。
写真も自前で撮るのです。


羊蹄山の麓にある牧場では、牛たちがのんびりと草を食んでいました。

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ここの牛さんたち、普段から人に優しくされているのでしょう。
人が来ても怖がりません。

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カメラに興味津々な子も。




誠実に、気持ちを込めて、牛のお世話をする酪農家の方々がいる。
その牛乳を、できるだけよい状態で加工する工場の方々がいる。
そういう皆さんの誠実な仕事のリレーの先で、食卓に食品が並ぶ。

安全や安心というものは、もちろんルールやシステムや管理や記録も大事だけれど、根本のところで本当に大切なのは、作る人と食べる人がお互いに顔が見える関係であること。それを仲介する人が双方に誠実であること、だと思います。

そういうことを実感として確かめられたこと。またそういうひとつの事例を若い職員たちに紹介でき、共感してもらえたこと。

とてもいい経験でした。

ありがとう、北海道。






すいかの匂い

小学生の頃、夏休みには毎年、家族でキャンプに出掛けることになっていた。
琵琶湖湖畔のキャンプ場。
湖の畔からそう遠くない山の斜面にテントを張れる場所が整備してあって、いくつもの青や黄色やカーキ色のテントが林の中に立っていた。奥の方にはいくつか、丸太でできたロッジもあった。
父親の勤め先の保養所みたいなところだったのだろうか、市営か県営のものの一部を勤め先が借りきっていたのだったか。父親の勤め先の同僚やそのご家族もたくさん来ていたから、そもそも父親の勤め先の労働組合かなにかのイベントだったのか。
水泳も海水浴もあまり得意ではなかったけれど、夏休みのキャンプ場は我が家の定番イベントだった。

覚えているのは、なんとも妙な記憶ばかり。
磯臭い浜辺の匂い。
砂浜の端の方にぐるぐるとまとめられた漁業用の大きな網に絡まった発泡スチロールの固まり。
砂浜のあちこちに転がっていた、前の日のものであろう花火の燃えかす。

夕方になると、浜辺でバーベキュー大会みたいなものが催されていて、大人たちが缶ビールを手にしながらわいわいやっていた。赤と金で麒麟の絵があしらわれたキリンビール、当時はクラシックラガーなんて名称はなかった。
家でめったに酒を飲む姿を見なかった父親も赤い顔をしていた。
カラオケ大会みたいなのがあって、マイクを握って歌う父親が、まるで別人に見えたこともよく覚えている。“あなたとわたしの合言葉~有楽町で会いましょう~”というフレーズと、普段家で見る父親はあまりにもかけ離れていた。
子供向けには映画大会があるよ、なんて言われて、浜辺にスクリーンが立てられるのをわくわくしながら待っていたら、始まったのはテレビでやっていた「まんが日本むかし話」でがっかりだった。
すいか割りもあった。
タオルで目隠しをされて、さぁ行くぞと思ったら大人に抱えられてぐるぐる回されて。どっち方向だなんてわかりようがない。仕方がないからあてずっぽうに歩いて適当なところで砂浜に棒をうち下ろす。はずれ。嗤い声。
すいか割りなんて、どこがおもしろいんだろう、って、ジャリジャリと砂が混じった、ぬるいすいかを食べながら思った。
キャンプから帰ると、ひりひりと焼けた肌。眠ろうにも背中が痛い。剥がれかけた鼻の頭の皮、無理に剥がそうとするとピリッとした痛み。いたた、というと、3つ上の兄貴がどれどれとやってきて、様子を見るふりをしてその皮をひっぺがす。イタッ!
・・・ばかやろう。

不思議と覚えているのはそんなことばっかりだな。
楽しいと思ったこともあったには違いないし、不快だとは感じてもそういうもんなんだろうとも思っていた。


そんなことをなんとなく思い出したのは、この本を読んだから。

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すいかの匂い / 江國香織

江國さんらしい、少女ならではの世界への違和感を、とても透明感のある文章で紡いだ短編集。
少しホラーっぽかったり、世にも不思議な物語的な奇妙さだったり、どこか胸がザワザワするような独特な世界観を持った11の夏の物語たち。

どの作品も、どこか少し歪んでいる。
けれどその歪みを、静謐で端正な言葉と、どこか甘やかな香りのする文章が紗をかけて、ぼんやりと包み込んでいる。
少し未熟なすいかの匂いのように、水っぽくも淡い甘みと、ほのかな青臭さと瓜独特の鈍い苦味を感じる。
夏に羽化する昆虫の羽根のように、少し湿って怪し気で、透明でやわらかくて、でも世界の真理を見せられてすんなりと受け入れて引き込まれてしまうような空気を醸し出している。

何かに似てるな、まったく同じではないけれど子供の頃に同じような思いをしたんじゃないのかな、そんな気分になってくる。
それは、例えば、兄貴がひっぺがした鼻の頭のような、ひりひりとした痛み、血のにじみ、そのあとに現れた薄いピンクの新しい皮膚。
あるいは剥がしたあとの焼けたうすい皮の、はかなさ。
小汚なくて嫌な臭いがするけれど、それが確かに自分の一部分で、否定したいけれど一方で捨てられない愛着のようなものすら感じてしまうような、そんな感じだろうか。







風の歌を聴け

時々、村上春樹という作家が、国民的に人気のある作家だということがすごく不思議に思える。
なぜ、村上春樹という作家が国民的作家であるにもかかわらず、世の中は村上春樹的ではないのか、と思ってしまうからだ。
君にそう問いかけると、君は事もなさげにこう答えた。
だって、サザエさんもちびまる子ちゃんも国民的アニメだって言われているけれど、だからって私はサザエさんにもちびまる子ちゃんにもなろうとは思わないもの。そういうものよ。





世の中で、苦手なタイプの人のパターンというのがいくつかある。
そのうちのひとつが、自称ハルキストというひとたちだ。
自称ビートルマニアや、自称ナイアガラーにも同じようなものを感じることがある。
どうしてだか、とても居心地の悪いものを感じてしまうのだ。
ジャイアンツもプロレスもへヴィーメタルも、どちらかといえば積極的に嫌いなのに、巨人ファンだとかプロレスマニアだとかメタラーだとかを自称する人たちについてよりも、自称ハルキストや自称ビートルマニアの方が気持ちが悪いと感じてしまう。
それはなぜだろう。



ずいぶん久しぶりに『風の歌を聴け』を再読したのは、Bananakingさんによる素敵な連作記事をずっと読んでいたからだ。

細部の印象が薄れていたので、もう一度読んでみようと思ったのだ。

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風の歌を聴け / 村上春樹

初めてこの本を読んだのは、確か高校一年の夏休みだった。「僕」がデレク・ハートフィールドに夢中になるより一年おそい。
学校からの帰り道に立ち寄れるそう大きくはない町の本屋さんの、レジの近くの平台に「今月の新刊」として山積みされていた文庫本を買ったのだ。1982年だった。当時は280円とか320円とか、そういう価格だったと思う。
いずれにしてもはっきり言えることは、当時村上春樹は新進気鋭の若手作家で、僕はまだ童貞のガキんちょだったということだ。
そのときの感想はおぼろ気にしか覚えてはいないのだけど、教科書に出てくるような作家や、大人たちが読ませようとする作家とは明らかに違う、といううすぼんやりとした共感を感じたのは確かだった。15才の感じることなんて、まぁその程度のものだ。

そのあと高校を卒業してから幾度か読み返したんだろうと思う。
立ち止まり行き先が見えないまま漂泊する登場人物に共感することもあれば、ずいぶんクールでペシミスティックに過ぎると辟易したこともあった。
30才を越してからは、きっと読み返したことはなかったと思う。


今回読み返して、あれ、こんなこと書いてあったっけ、と思ったのは、1970年の夏の物語に入る前の最初の章。

「文章を書くことは、自己療養の手段ではなく、自己療養へのささやかな試みに過ぎないからだ。」

という言葉。
そして、

「うまくいけばずっと先に、何年か何十年か先に、救済された自分を発見することができるかもしれない。」

という言葉。

この第一作めの作品(処女作という言葉は敢えて使わない)は、そういう思いで書かれたものだったのか、ということ。
この、村上春樹的スタンスを表明した一文は、若い頃の僕にはまるでひっかかっていなかった。

もしもこの作品が売れずに、村上春樹が続編を書かなかったとすれば。
きっとこの作品は、伝説になっただろう。
たった一枚のアルバムを録音して解散したフィフス・アヴェニュー・バンドのように。あるいは、たった一枚のアルバムしか残さずに30才で溺死してしまったジェフ・バックリィのように。
そして本人は、デレク・ハートフィールドのようにエンパイア・ステート・ビルからヒトラーの肖像画と傘を持って飛び降りていたかもしれない。

実際は、村上春樹はこのあとも書き続け、書きながらスタイルを変え続け、いつの間にか、国民的作家どころか、世界的な小説家になった。
けれど、この第一作めの第一章に書かれた言葉・・・自己療養と救済・・・こそが村上春樹が小説を紡ぐ意味だったのだとすれば、、、
いや、こんなことはきっと、数多の村上春樹批評家が真っ先に書いていることだろうな。
僕が感じたのは、村上春樹は救済されたのだろうか?ということだ。
おそらくは救済された。
ただし、代わりに別の闇を請け負った。
まぁ、生きることはきっとそういうものなのだろう、という気がする。
上手くは説明できそうにはないけれど。




さて、冒頭に記した話題。
ハルキストやビートルマニアを自称することへの違和感のこと。
それは、そういうことを自称する行為の中にある「100%の信頼と服従をします」という感覚が、それらの作品の本質からはずっと離れた真逆のことなんじゃないのか、という思いが拭えないところから来るのだと思う。

巨人ファンやプロレスマニアやメタラーなら、虚構の世界に100%の信頼と服従をする中で虚構の世界を楽しめばいい。けれど、村上春樹が描き出そうとしたのはそういったファンタジーではなく、現実と関わっていく中での世界の切り取り方なのではないのか、と。
そういうことにすら無頓着、無神経でただ受け取った作品を礼賛するのだとすれば、やはり作品で表明された本質とはとても遠いのではないか、と思ってしまうのだ。








腐敗と発酵

腐敗とは、有機物が微生物の作用によって変質する現象。
腐敗物には腐敗アミンなどが生成分解するため独特の臭気を放つ。
また、腐敗によって増殖した微生物が病原性のものであった場合には有毒物質を生じ、食中毒の原因ともなる。
(wikipediaより)

毎日じとじとムシムシですね。
梅雨明け宣言がいきなりでて突然の猛暑💦、心の準備ができてなくって参りました。
気温高い上に湿気が高い。
こういう高温多湿は雑菌が最も活発に活動する環境なのです。
いろんな衛生管理や流通上の温度管理が発達して昔よりものが腐りにくくなっている印象がありますが、この時期はさすがに危ない。
作りおきの鍋など半日放置したらアウトでした。

モノは腐る。
これはある意味正しい自然の姿。

ところで。
腐敗と発酵は、菌が作用してもともとあった物質の性質を変えていく、という点で、起きている現象としては同じことらしいですね。
人体に悪い影響を及ぼすものが腐敗、悪い影響を及ぼさないものが発酵。

仕事でヨーグルトや納豆の工場を見る機会があって、改めて発酵ってすごいな、って思ったのです。
ヨーグルトも納豆も、製品のパッケージになった段階ではまだ未完成なんですね。
ヨーグルトはしゃばしゃば、納豆は煮豆の状態で一旦パッケージされます。
パッケージの中に菌を入れて、定められた温度で寝かせることで菌が働いて、パッケージの中で製品になっていくのです。
一定時間一定の環境に置いて発酵がすすんでからあとは、冷蔵管理して発酵を止めるわけですが、菌は生きているので商品になったあとも発酵は続きます。
賞味期限を過ぎたヨーグルトが酸っぱくなりすぎたり、納豆がとろとろになってしまうのはそれ。

品質の安定した商品として出荷するためには、その日の気候条件や原料の状態にあわせて微妙に温度や時間を調整することが必要で、これを判断するのは職人の経験値。日本のモノづくりの奥深さ、なんですが、職人さんたちに言わせると「環境を整えて菌が活動していくお手伝いをしているだけ。がんばっているのは菌ですね。」ということになるわけで。

そうか。
環境を整える。
そういうことだな。

菌の作用をじっくりとただ待つ。
いろんなことが少しずつ変化して、発酵していく。
その環境をどう整えるのか。


人生も発酵過程と同じだな。
いろんな経験が少しずつ作用して変質していく。
元の材料、その置かれた温度、湿度、などの条件によって様々に変化する。
腐敗してしまうのか、人体に有効な発酵なのか、それは菌の種類と環境次第。


京都で悲惨な事件がありました。
事件の現場は、そう遠くないところで、いつも図書館へ行くのに通りかかるエリア。そんな場所であんな非道なことが起きたのが、逆にリアル感がなかったり、たどっていけば知り合いの知り合いくらいには今回犠牲になられた方の近親者がいらっしゃったりするのかな、とか思ったり。
容疑者が何を考えていたのかはわからない。
狂っていると言ってしまえばそれまでだけど、、、なんていうんだろうか、ふと、腐敗と発酵の紙一重さを思ったのです。
ある環境の中で、変質していく何か。
いつの間にか、本人をも汚染してしまった毒素。
それは、腐敗と発酵の差、すなわち紙一重の差だったのではないか、と。

もちろん容疑者を擁護するつもりなんてさらさらない、結果としての重大さは取り返しがつかないし、それは極刑をもって裁かれるべきだし、あまりにも理不尽に人生を寸断された被害者の無念やその近親者の悔しさや哀しみはどんなことをもっても償えるものではない。
ただ、、、本人的には発酵のつもりで熟成させようとしていたものが、実は社会にとっては有害な毒素だったということはあり得ないことではなくて、そこを否定してはいけないのではないのかと。
加害者を自分と全く別の世界の人間としてはいけないのではないか、と。
誰でも被害者にも加害者にもなり得る。
そのことを自覚した上で、自分の中の質的変化が有用な発酵であることを願いたいな、と。
そして、少しでも、菌が有効な活動ができる環境を整えることができるようであれますように、とそう願わずにはいられない。




蒸し暑い夏の夜に、腐敗と発酵が紙一重の音楽を。
トム・ウェイツ“Down Down Down”。







音楽歳時記シーズン3「大暑」

立春・立夏・立秋・立冬のそれぞれの前の18日間を「土用」といいます。
この時期は季節のつなぎめの不安定な期間で、すなわち体調を崩しやすい。
特に夏の土用の頃は、通常は一年で一番暑い時期。気温も高い上に多湿な日本ならではの湿気の高さが不快感をよりあおり体力を消耗させる。
高温多湿な状況は、一般生菌類の活動が活発になりやすいわけで、体力減退+菌の活動となれば、病人死人がたくさん出るのもこの時期だった。
そこで滋養のあるものを食すべし、なんてことで、「土用の丑のうなぎ」の風習が登場したわけですね。

土用の丑の日は7月27日。
その少し前、7月23日が二十四節気の「大暑」。
本来ならばここから10日ほどが暑さの山場なんだけど、梅雨の遅い今年、今日もざんざかと雨が降り続いていて、夏らしい空にずいぶんお目にかかっていない。ここまで梅雨が遅いのもちょっと記憶がないな。
茹だるような暑さに遭わないのは体力的には助かるんだけれど、ここからいよいよ猛暑が来ると想像すると辛いものがある。
今年は冷夏でいいよ、今さらもうご勘弁を、ってのが正直な気持ちだけど、気候っていうのはやはり雨が降る時期には降って、暑くなる時期には暑くなってくれないと、農作物の生育やらいろんなことに支障が出る。そーゆーことがそのまま仕事の忙しさに直結してしまうので、困ったものであります。

とりあえず仕事を終えて、冷えたビールをプシュっと。
うなぎもいいんだけど、真夏にはお好み焼きが食べたくなるのは、関西人故か。
アツアツの鉄板で、コテでひっくり返しながらハフハフ言いながら食べるのがいいんだ。

あー、猛暑だろうと冷夏だろうとなんでも来やがれ。
ぼやいても始まらない。
今置かれた状況の中で、どう最善を尽くすか、だ。
グルーヴィーに行こう。

というわけで、大暑の一枚、ジョージ・ベンソンの『The George Benson Cookbook』。

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The George Benson Cookbook / George Benson

ジョージ・ベンソンっていうと、テレテレと洒落たギターを弾いてアダルトな歌を歌うフュージョンの人、っていう印象が強いけど、このアルバムはそーゆーのとは違って、ものすごくソウルフル。
ジャズ好きの人がこのレコードをどう評するのかはよくわからないけど、一部の頭の硬いジャズ・ファンに独占させておくのはもったいない、インスト・ソウル・ミュージックだ。
うなぎの蒲焼きみたいに、こってりと脂がのって、香ばしくて旨みたっぷりの曲がどっさり。
あるいは、鉄板で焼きたてのお好み焼きみたいに、アツアツでふわふわ。豚肉の脂にキャベツの甘み、ソースの旨み。
こりゃ、メシも旨いしビールも旨いぜー。

旨みの元は、艶やかで香ばしいギターの音色やジューシーなリズム。脂っこさたっぷりのオルガンもいい味出してますねー。
しかし、根本のところにある旨みの大元は、いわゆるブルース・フィーリング。



さて、これから猛暑になるのか、冷夏でつつがなく過ごせるのか。
どっちにしても、滋養のある音楽を聴いて、大暑の時期を乗り切るべし、だ。
今置かれた状況の中で、どう最善を尽くすか、だ。
半分酔っぱらいながら、グルーヴィーに行こう。











選挙定食

食べ物に関して、些細だけど譲れない部分はきっと誰にでもある。
ハンバーグは食べたいけど、コーンスープじゃなくって味噌汁が飲みたい。
トンカツはソースが基本だけど、今日は大根おろしダレで食べたい気分。
チャーシューたっぷりのラーメンもいいけど、メンマをたっぷり乗せたい。
けど、外食ではなかなか自分の好みを思いのままに選ぶことはできない。
残念ながらほとんどの場合、料理店が「うちのメニューはこれ」とあらかじめ決めたものしか食べられないのだ。

まぁ、食の好みなどは個人的なものでどうでもいいことなのだけど、政治となると、それがそのまんま世の中の行き先に反映されてしまうのだから困ってしまう。
「選挙を前にした各党の政策は言わば定食みたいなもので、有権者は料理のひとつひとつを選ぶことはできない。」
と言っていたのは、池澤夏樹さんだったか。
有権者は、政策をセットメニューでしか選べない。
誰もが喜ぶ経済政策が魅力的だったので注文したら、増税と軍備強化がセットで付いてきた。
えっ、こっちはいらないよ、なんて後から言っても後の祭。
事実上は「有権者に政策を示して、信任されました。」ってなことをしゃあしゃあとのたまわれたりしてしまう。

定食のメニューをひとつひとつ選べない以上、結局のところ、メニューはシェフにお任せすることになる。
信用できるシェフならそれもありだろうけど、そのシェフが信用に価するかどうかの情報は極めて少ない。もしくは、イメージ、雰囲気にひどく偏っている。

老舗のセットメニュー戦略に対抗できる近隣のお店も、どうもいまいち信用がうすい。
新しくできたお店に入ってみたら、あまりにも奇抜すぎた、とか。
消費税ゼロ、教育無償化、年金増額なんておいしそうなメニューを掲げてはいるけれど価格がわからない、とか。
自分とこのメニューそっちのけで、隣のお店の悪口ばっかりとか。
お客そっちのけで店員同士が言い争いばかりしているお店もありそうだ。


個人的には、憲法を見直してみることも大反対ではないのです。
制定から70数年経って、今の時代に合うものに見直してみることはあってもいい。そういうプロセスの中で自国の平和と地域の平和をどう維持するのかをもう一度ちゃんと論議する中で、国民が本当に望む憲法を制定することはありだと思う。
ただ、改憲といえばイコール国軍保有、護憲といえばなにがなんでも九条死守、というイエスかノーの二者択一しか選択肢がないというのはどうにも歯がゆいのですよね。
消費税だって、0%だ5%だ、いや10%必要だという目盛りの上げ下げ以前に、どう使うのかって問題が先のはずなんだけど。


なんて、いろいろぼやきつつも、投票にはちゃんと行くのですよ。
義務を遂行せずに権利だけ主張するわけにはいかないからね。


People / Susan Tedeschi

スーザン・テデスキ姐さんの“People”。
歌われているのはこういう言葉。

People, People
don't you know you have a voice?
People, People
don't you know you have a choice?

そういうことですよね。
スーザン姐さんが歌うと、とても力強くしかもしなやかだ。

まずは意思表示をする。
投票に行かないことは、結局「都合のいいように世の中を回したい人たち」を利することににかならないのですよね。
そもそも権利放棄したんじゃ、文句すら言えない。
積極的な選択ではないにしても、100%の一致でないにしても、あれよりはこっちのほうがまだましだというレベルだとしても。
行かないよりは行ったほうがずっといい。絶対いい。
この国の在り方を選ぶのは、私たち自身。
黙ったままだと、特定の利権と密着している人たちの思いのままにされてしまう。普通に暮らしたいだけなのに、誰かの道具のように扱われてしまう。
そんなのは、嫌だなぁ。
僕らの暮らしは、あんたたちの道具じゃない。

People, People
don't you know you have a voice?
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golden blue

Author:golden blue
“日々の糧と回心の契機”のタイトルは、好きな作家の一人である池澤夏樹氏が、自身と本との関わりを語った著書『海図と航海日誌』の一節より。
“日々の糧”とは、なければ飢えてしまう精神の食糧とでもいうべきもの。“回心”とは、善なる方向へ心を向ける、とでもいうような意味。
自分にとって“日々の糧”であり“回心の契機”となった音楽を中心に、日々の雑多な気持ちを綴っていきたいと思います。

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Live in Europe 201905070713164db.jpg tomt 51cKCqaKQxL__SY355_.jpg 81DCRuSH25L__SL1500_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg MI0002782768.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg soulman_original_alb.jpg 51FGtOkImKL_SX300_.jpg west_side_soul1.jpg Beggars Banquet エヴリ・ワン・オブ・アス+1 randynewman.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 71otoVzhCuL__SL1105_.jpg 413AMGT7SFL.jpg 51ds00OKe-L.jpg 616osu5m8iL_SX425_.jpg 305a1614.jpg 81pMwMtFveL__SL1345_.jpg 81f2DLVCzJL__SL1300_.jpg 51uOzyp+Z6L.jpg 71eG2rIxazL__SL1046_.jpg 51ZJJGM2ZZL.jpg Fire and Water MI0000043426.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg th.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg Fragile 2018102520542977d.jpg littlefeat.jpg 715IJ+j9EuL__SL1131_.jpg Music Muswell Hillbillies 71ctdmsHsJL__SL1084_.jpg 71PD4tBKioL__SL1116_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg SantanaCaravanserai.jpg 61XXWX6tmCL.jpg 61NAZCOWDDL__SL1100_.jpg セイリン・シューズ(紙ジャケットCD) 71eNbpCI6UL__SL1077_.jpg 511-tyxVUpL.jpg 91gT9fqhZ3L_SX425_.jpg I'm Still in Love With You 414HP65MBKL.jpg 51X8dY66CsL.jpg 愛と自由を求めて 51RXYQ9OO3L.jpg Takin My Time Closing Time There Goes Rhymin Simon 明日に架ける橋(紙ジャケット仕様) ひこうき雲 GP Moondog Matinee 716rGZASCKL__SL1425_.jpg 41SSP93BHWL.jpg 51zJyUc+r6L.jpg 51jCzIh4qRL__SS280.jpg 61-8DQVxWjL__SL1050_.jpg 61dZdC6t62L__SY355_.jpg 71aWAFuF6BL__SL1050_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 91nimun-gdL__SX425_.jpg 51JbSP69QaL.jpg 渚にて 5197RcTXXnL.jpg 81A5c2hHeyL__SL1425_.jpg 81qgW6uhF1L__SL1500_.jpg Born to Run Nils Lofgren 61BdFFiXniL__SX425_.jpg スネイクス&ラダーズ(ベスト)(紙ジャケットCD) 20171026013241d1d.jpg ROCK 'N' ROLL 61ijQ7n04TL__SL1065_.jpg 31vqqUxOjnL.jpg 612tlGtI4sL_SX425_.jpg Malpractice c674c8d38b834d1a46f26cee2f0381b7.jpg 71f0CPCXaJL__SL1050_.jpg 71s7uOgUVBL__SL1092_.jpg 81-hcf-9GdL__SL1228_.jpg In Concert: Best of Pretender 3112T4QJV9L.jpg Equal Rights Songs in the Key of Life “1976” 6184mADL6LL.jpg Ronnie_Lane_-_One_For_The_Road_-_LP_RECORD-57899.jpg Brinsley_Schwarz_Surrender.jpg 51sDSqlWYbL.jpg マーキー・ムーン Ramones L.A.M.F. - 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